昆陽池

昆陽池（こやのいけ）

昆陽池は、奈良時代に行基によって摂津国川辺郡に造営されたと伝えられる、広大な溜池です。現在、その一部が兵庫県伊丹市昆陽地域に昆陽池として残存し、周辺地域と合わせて昆陽池公園として整備されています。公園を含む一帯は、昆陽池一〜三丁目という行政地名となっています。

概要

昆陽池は、奈良時代の僧・行基（668-749）が主導して開削されたと伝えられています。自然地形を生かし、灌漑と洪水調節の役割を担っていました（昆陽池陥没帯または昆陽池地溝帯を参照）。

行基の没後約400年後に編纂された『行基年譜』の天平13年（741年）の記述には、この近くの「河邊郡山本里」に行基による昆陽上池と下池があったことが記されています。江戸時代の初めに下池が埋め立てられ、上池が「昆陽大池」あるいは「昆陽池」と呼ばれるようになりました。さらに1970年代には、残っていた昆陽池の約3分の1も埋め立てられました。

現在は、造営当時の一部のみが昆陽池として残り、昆陽池公園として整備され、市民に開放されています。28.5ヘクタールの昆陽池公園内には、自然池（北側）12.5ヘクタールと、浄水場の水源としての貯水池（南側）4.5ヘクタールの二つの池があります。

行基年譜

行基の没後に編纂された『行基年譜』の天平13年の記述には、造営した施設が種別に挙げられており、そこに「崑陽」の名をもつ「池」と「溝」（水路）についての記述が見られます。

「池十五所」の中に

河邊郡　崑陽池

「溝七所」の中に

河邊郡　崑陽溝

という記載があります。

昆陽上池・下池

上池 - 現在の昆陽池のあたりと考えられます。
下池 - 上池の西側にあったと考えられます。

開削当時の昆陽上池と昆陽下池は、現在の昆陽池よりもはるかに広い面積を占める大きな池であったと考えられますが、具体的な記録は見つかっていません。院前池、中布施尾池、長江池については、どこにあったのかを含めて詳細はわかっていません。

上溝は天神川、下溝は天王寺川と考えられます。

昆陽上池は、下池が埋め立てられて無くなった後は「昆陽大池」あるいは単に「昆陽池」と呼ばれるようになりました。池の管理者は昆陽村が務めました。明治18年の地図には、現在よりもはるかに広大な昆陽池の形状が見て取れます。上池は昆陽村・池尻村・寺本村に水を供給してきましたが、周辺の都市化により1960年代に北東部分、約3分の1が埋め立てられ、企業のグランド、養護学校などになりました。

残った昆陽池とその周辺地区は1965年（昭和40年）に伊丹市により公園化され、さらに1970年代、昆陽池公園・浄水場用貯水池として整備され、自然池12.5ヘクタール、貯水池4.5ヘクタールとなっています。公園の南側には伊丹市千僧浄水場（昭和40年建設、貯水量150,000立方メートル）があります。

上池の西、武庫川寄りにあった下池は池尻村・山田村・野間村・友行村・時友村に水を供給しました。江戸時代の初め、慶長13年（1608年）に昆陽村と池尻村が下池を埋め立て、田畑化を代官に願い出た記録があります。下池は埋め立てられ田畑になり、新田中野村が生まれました。

昆陽上溝・下溝

上溝 - 天神川と考えられます。
下溝 - 天王寺川と考えられます。

どちらも長尾山麓から昆陽池付近までは猪名川・武庫川と並行に流れる天井川です。

当時の1丈を12尺とすると、「長一千二百丈」は14,400尺となります。

略年表

行基（天智天皇7年（668年） - 天平21年（749年））の主導により開削 - 『行基年譜』（天平13年記、741年）に昆陽上池・下池、昆陽上溝・下溝などを造営したとの記録があります。
江戸時代の初め、慶長13年（1608年）に昆陽村と池尻村が下池を埋め立て田畑化を代官に願い出た記録があります。下池は埋め立てられ田畑となり、新田中野村ができます。
文化年間（1804年-1818年）の史料の絵図には下池の記載はなく、上池と考えられる池が「昆陽大池」として記載されています。
江戸時代の史料によれば当時の昆陽池は約50ヘクタールと考えられます。
明治18年の地図には、現在よりもはるかに広大な昆陽池の形状が見て取れます。
昭和15年当時の昆陽池の面積は50町5反5畝18歩（約50万平方メートル）でした。
昭和35-36年（1960－1961年）、北東部約3分の1が埋め立てられました。
昭和47-57年（1972-1982年）、昆陽池公園として整備されました。

昆陽池陥没帯

伊丹市域は東に猪名川、西に武庫川が流れ、その間に伊丹台地が広がっています。伊丹台地は北の北摂山系から南の大阪湾にかけて緩やかな傾斜がついています。

その途中、伊丹市を東西に分断するように伊丹断層が走り、その北側に一段くぼんで低くなっている地域が昆陽池の南西から北東に延びています。昆陽野、猪名野のあたりで、昆陽池陥没帯あるいは昆陽池地溝帯と呼ばれています。

北から流れてきた天神川や天王寺川の川筋はこのあたりで急に西に流路を変えて武庫川に向かいます。

行基はこの陥没帯地形の高低差と旧川筋のくぼみを生かすことで広大な溜池を造成したと考えられます。行基の作った昆陽の池は灌漑だけでなく洪水調節の役にも立つものでした。

歌枕

過昆陽池入武庫山 - 藤原定家『明月記』建暦2年の記述より
冴る夜はよその空にぞ鴛鴦も鳴く凍りにけりな昆陽の池水 - 西行法師

昆陽池（町丁）

伊丹市の行政地名としての昆陽池は、1981年（昭和56年）に当時の大字昆陽から分離し、独立した町丁として昆陽池一〜三丁目が設定されました。全域が伊丹市立稲野小学校および西中学校の校区です。

北の一点で瑞原、北東で瑞ケ丘、東で広畑、南東の一点で千僧、南で昆陽、南西で昆陽北、西で松ケ丘、北西で中野東と接しています。中野西とは僅かに接していません。3丁目の大部分は昆陽池公園が占めています。

町内に鉄道は通っておらず、約2キロメートル東の阪急伊丹線伊丹駅が最寄り駅となります。伊丹市バスでは昆陽池公園前、スワンホール前、玉田団地（昆虫館）、松ケ丘などの停留所が設置されています。

町内の主な施設

昆陽池公園
伊丹市昆虫館
スワンホール（伊丹市立労働福祉会館・青少年センター）
市立伊丹病院
阪神北広域こども急病センター

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