明烏

明烏（あけがらす）

古典落語『明烏』は、田所町の若旦那・時次郎を主な舞台に展開する物語で、彼の堅物さから生じるコミカルな展開が魅力です。本作の原話は、新内節の「明烏夢泡雪」から派生したものであり、タイトルの「明烏」は、早朝に鳴くカラスを指し示し、男女の一時的な愛の終わりを象徴しています。

あらすじ

物語は、若旦那・時次郎が自身の部屋にこもり、慣れ親しんだ本を読み耽っている場面から始まります。彼は非常に真面目で、遊郭や悪所からは無縁の生活を送っているため、周囲の人間は彼の世間知らずぶりを嘆いています。それを察した父親である大旦那は、息子が遊びを知らなければ店を継ぐことができないと考え、遊び好きの2人を呼びます。

その2人は、若旦那を遊郭に連れて行くことを承諾します。遊楽への費用はすべて店持ちという好条件も後押しし、彼らはお稲荷様に参拝するという名目で若旦那を連れ出します。遊興地に近づくにつれ、若旦那は周囲の雰囲気に違和感を覚え始めますが、巧妙に言いくるめられ、疑いを抱く暇もなく店に足を踏み入れることになります。

江戸落語では、舞台となる遊郭が吉原に設定されており、周囲の様子を見て、若旦那はついに自らここが遊郭であることを悟ります。しかし、パニックに陥った彼は逃げようとしますが、2人の友人が大門に見張りがいると言ってそれを止めます。困惑した若旦那は、結局一番美しい花魁と一晩を共にすることを決心します。

翌朝の展開

朝日が昇ると、若旦那は遊女と共にすっかり良い気分になっていますが、友人たちは逆に振られたままの姿で朝を迎えます。若旦那も友人の元を訪れ、状況を確認しにいくと、彼は思いもよらずすっかり花魁に心を奪われていました。完全に骨抜きにされてしまった若旦那の様子は、横で見ていた友人たちにはその滑稽さが感じられて仕方ありません。彼らは若旦那に「私たちは先に帰る」と声をかけますが、若旦那は冷静に「勝手に帰りなさい。大門で止められますよ」と答え、遊女の魅力にすっかり引き込まれています。

このように、若旦那の堅物さと遊興の世界とのギャップ、また彼が思わぬ方向へ心を奪われていく過程は、笑いを生み出す重要な要因となっています。『明烏』は、若者の成長と未知の世界への一歩を軽妙なトーンで描いた名作として、今も多くの人々に親しまれています。

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