昔の名前で出ています

『昔の名前で出ています』は、俳優・歌手である小林旭が1975年 1月25日にリリースしたシングル曲です。彼の数あるヒット曲の中でも、1980年代後半に大ヒットした『熱き心に』などと並び、彼のキャリアを代表する一曲として広く知られています。

ヒットに至る経緯

本作は発売当初の1975年には商業的な成功には結びつかず、しばらくは目立った動きがありませんでした。しかし、小林旭自身が全国各地のキャバレーなどを地道に回り、直接聴衆に歌を届けるという草の根的なプロモーション活動を続けた結果、発売から約2年後の1977年頃から徐々に注目を集め始め、静かに、しかし確実に売上を伸ばしていきました。この粘り強く継続された活動が実を結び、本作は長期にわたるロングセラーへと発展します。

累計売上は、小林旭自身の語るところによれば約270万枚、一般的には200万枚を突破したとされています。オリコンによる集計では、100位以内にランクインした期間の累計で約95万枚を記録しており、これは2019年時点において、オリコン集計における小林旭のシングル最大のヒット曲となっています。発売から時間をおいてからのブレイク、そして記録的な売上は、当時の歌謡曲としては特筆すべき現象でした。

メディアでの展開

この大ヒットを受け、1977年末に放送された第28回NHK紅白歌合戦に小林旭は念願の初出場を果たし、本楽曲を熱唱しました。これは、彼の歌手としてのキャリアにおいて非常に重要な出来事となりました。

また、本作は1978年に公開された映画『多羅尾伴内』の挿入歌としても起用され、その知名度をさらに高め、楽曲のイメージを広げることとなりました。

ベスト盤収録音源について

なお、ポリドールやソニーレコードなど、過去に小林旭が在籍したレコード会社から発売されたベスト盤の中には、リリース当時の1975年のオリジナル音源ではなく、それぞれのレコード会社に在籍していた1980年代や1990年代に改めてレコーディングされたバージョンが収録されている場合があります。これらの再録音バージョンは、時代と共に変化したサウンドや歌唱スタイルが反映されていることがあります。

関連エピソード：お蔵入りとなった「ホルモン小唄」

本作のヒットにまつわる興味深いエピソードとして、同じく作詞家・星野哲郎による『ホルモン小唄～元気でチャチャチャ』という楽曲がお蔵入りとなった経緯が挙げられます。この曲は、小林旭の熱狂的なファンとして知られる音楽家・大瀧詠一が作曲を手がけ、同じく音楽家の細野晴臣プロデュースによる1977年の小林旭のアルバムに収録される予定でした。

大瀧自身が愛情を込めて仮歌まで吹き込んだものの、本作『昔の名前で出ています』が予想外の大ヒットを記録したことにより、小林旭の歌手としての方向性が急遽変更され、『そんなアルバムを作っている場合ではない』として、アルバム企画ごと立ち消えになってしまったのです。このため、小林旭による公式の歌唱音源は現在まで存在しません。しかし、長い年月を経た2023年、大瀧詠一が歌唱したバージョンが初めて一般に公開され、日の目を見ることとなりました。

ちなみに、大瀧詠一はその後、小林旭のために別の楽曲を作曲しており、それが前述の代表曲『熱き心に』（作詞：阿久悠）として、1985年に大ヒットを記録しています。この二つの楽曲にまつわるエピソードは、日本の音楽史における興味深い繋がりを示しています。

収録曲

本作のシングル盤には、以下の2曲が収録されています。

- 昔の名前で出ています (3分50秒)

作詞：星野哲郎
作曲：叶弦大
編曲：斉藤恒夫
コーラス：シンガーズ・スリー
演奏：クラウン・オーケストラ

- 夕子 (3分25秒)

作詞：星野哲郎
作曲：叶弦大
編曲：原田良一
* 演奏：クラウン・オーケストラ

作詞・作曲は両曲とも星野哲郎氏と叶弦大氏のコンビが担当しており、編曲には斉藤恒夫氏と原田良一氏が名を連ねています。

アンサーソング・パロディ

本作のヒットは、様々なアンサーソングやパロディを生み出すほど、当時の音楽シーンに大きな影響を与えました。

小林旭自身も、1978年5月25日に『私の名前が変わります』という楽曲をリリースしており、自身の代表曲に対するセルフアンサーソングとなっています。

また、タレントとしても活躍する所ジョージは、1984年 1月1日に『私の名前で出ています』というタイトルでアンサーソングを発表しています。さらに、所ジョージは1980年のアルバム『みんな不良少年だった』の中で、『昔の車で乗ってます』という、本作のタイトルを捩ったパロディ的な楽曲も披露しており、本作が広く認知されていたことを示しています。

『昔の名前で出ています』は、その独特なタイトルと歌の内容、そして何より小林旭自身の粘り強い活動によって遅れて大ヒットしたというドラマティックな背景を持ち合わせ、日本の歌謡曲史において語り継がれる一曲となっています。

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