春日井薫

春日井薫は、1900年1月26日に愛知県西加茂郡小原村（現在の豊田市小原大倉町）に生を受け、激動の昭和期に経済学者、そして教育者として多大な足跡を残しました。特に金融論を専門分野とし、その研究は多岐にわたりました。

若き頃、春日井は明治大学専門部商科にて学び、1921年にその課程を修了しました。その後、1923年から1926年にかけてアメリカ合衆国およびイギリスに留学し、国際的な視野を広げるとともに、専門知識を深めました。この海外での研鑽が、その後の研究活動の基盤となりました。

帰国後、1928年には母校である明治大学商学部の教授に就任し、研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせます。教育と研究に情熱を注ぎ、1939年には学位論文「英國に於ける兌換銀行券發行の原則論議の研究」を提出し、明治大学より商学博士号を授与されました。この論文は、彼の金融論における深い洞察を示すものとして評価されています。

学内においては、教育・研究活動にとどまらず、大学運営の要職を歴任しました。1949年からは商学部長として学部運営を牽引し、1951年には明治大学学長の重責を担います。さらに、1970年には総長に就任し、大学全体の最高責任者としてその発展に尽力しました。また、学術面だけでなく、大学組織の活性化にも積極的に関わり、明治大学マンドリン倶楽部の部長や、1959年から1969年まで「駿台体育会」の会長を務めるなど、学生の課外活動支援にも力を注ぎました。

研究者としての功績としては、古典学派前後を中心とした金融関係の研究が挙げられます。彼が生涯をかけて集めた蔵書の一部は、現在、明治大学図書館に「春日井薫文庫」として収められており、特に金融分野の貴重な洋書コレクションとして後進の研究に役立てられています。教育者としても優れた手腕を発揮し、原正彦氏や清水義汎氏など、金融や証券の分野で活躍する多くの経済学者を育て、学会および実業界に多大な貢献をもたらしました。

学術・教育界における功績に加え、春日井薫は社会的な活動にも関わりました。三島由紀夫追悼集会に端を発する憂国忌の発起人の一人に名を連ねたことも、彼の思想や人柄を示す側面の一つです。

これらの長年にわたる功績に対し、1970年には勲二等旭日重光章を受章しました。1972年に明治大学を退職した後も名誉教授、名誉顧問として大学との関わりを持ち続けました。

家族としては、息子に春日井敬氏がおり、父子は共にJ・R・コモンズの著書『集団行動の経済学』の翻訳を手がけています。

1981年2月10日、春日井薫は東京都世田谷区の自宅にて、急性心不全のため81歳で永眠しました。その墓所は多磨霊園にあります。逝去に際し、正四位が追叙されました。

主な著書・訳書には以下のものがあります。

共著
一泉知永『金融論』（文雅堂書店、1963年）

訳書
J・R・コモンズ『集団行動の経済学』（春日井敬との共訳、文雅堂書店、1958年）
W・C・ミッチェル『景気循環』（文雅堂、1961-1965年）
W・C・ミッチェル『経済理論の諸型態』（文雅堂銀行研究社、1971-1981年）

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