春興鏡獅子

春興鏡獅子（しゅんきょうかがみじし）

『春興鏡獅子』とは、日本の伝統舞台芸術である歌舞伎と日本舞踊の演目で、明治26年（1893年）に東京歌舞伎座で初めて上演されました。この作品は、通称『鏡獅子』として知られており、新歌舞伎の十八番の一つとなっています。

作品の背景と作成過程

この演目は、石橋物の中でも特に人気のある作品です。初演時には、長唄を基にした所作事が披露され、作詞は福地桜痴、作曲は三代目杵屋正次郎、振付は二代目藤間勘右衛門と九代目市川団十郎によって手がけられました。九代目団十郎は、当初耳にした『枕獅子』の振り付けを自身の娘たちに見せる中で、獅子の動きを新たに再構築するアイデアを思いつきます。彼は、廓や傾城といった情事を連想させる設定を嫌い、江戸城大奥を舞台に変更し、主人公も傾城から大奥の女小姓へと変えました。

物語の流れ

物語は、正月七日の「御鏡餅曳き」に設定されています。この日は、奥女中たちが若い小姓の弥生を呼び出し、踊るようにと勧めます。弥生は最初こそためらいますが、次第に楽しめるようになり、踊りを披露し始めます。しかし、踊っているうちに、場にある獅子頭を手に取ると、その獅子頭には霊的な力が宿っており、弥生はその力によって引きずり去られるようにどこかに連れ去られてしまいます。やがて獅子の精が現れ、胡蝶とともに牡丹の花の中で遊び狂う様子が描かれます。この獅子の姿は白いカシラに法被半切という特異な衣装で表現され、観客を魅了します。

「御鏡餅曳き」は、正月に献上された鏡餅を特別なそりに載せ、音楽や仮装を伴って大奥内を回る行事です。この特別な日には、本来男子禁制の場所でありながら、様々な余興が行われるため、多くの人々が集まりますが、実際には弥生のように踊ることはありませんでした。

主な役者と影響

この初演での主要な役者には、九代目市川團十郎が弥生と獅子の精を演じ、胡蝶の役には彼の娘たち、市川実子と市川富貴子が起用されました。この舞台は、江戸時代以降女性が男役者と共演することが禁止されていたため、その意味でも歴史的な舞台となりました。

弥生が持つ獅子の頭は「手獅子」と呼ばれ、片手で持ちながら踊ります。初演の際には、この手獅子は簡単に舞台上に置かれていただけでしたが、時間とともに祭壇が設けられるなど演出が進化しました。

九代目團十郎がこの作品を一度だけ演じた後、以降は六代目尾上菊五郎がその振付を受け継ぎ、彼にとっての代表的な演目となりました。今日では、さまざまな役者によって再演され続けています。

注意点

江戸学者の三田村鳶魚は、初演当時の状況を基に、福地桜痴が創作した内容が広まることへの懸念を述べました。この演目の設定や登場人物は、実際の歴史的背景に対する誤解を引き起こしかねないため、注意が必要です。

歌舞伎の『春興鏡獅子』は、深い歴史的背景と独自のストーリーが織りなす魅力に満ちており、日本文化の重要な一翼を担っている演目です。

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