昭和天皇誤導事件

昭和天皇誤導事件：群馬県を揺るがした重大な失態

1934年（昭和9年）11月16日、群馬県高崎市で行われた陸軍特別大演習の視察中に、昭和天皇一行の先導車が道を誤るという重大な事件が発生しました。この事件は、昭和天皇一行行方不明事件、あるいは桐生鹵簿誤導事件とも呼ばれ、関係者に処分が下るだけでなく、当時の社会に大きな衝撃を与えた出来事として知られています。

事件の経緯

観兵式後、昭和天皇一行は桐生市への行幸の予定でした。桐生駅を出発し、桐生西小学校、桐生高等工業学校を訪問する予定でしたが、先導役の警部が交差点を誤って直進。結果、昭和天皇一行は予定されていた桐生西小学校を訪問することなく、桐生高等工業学校へと向かうことになりました。

桐生西小学校では、天皇一行が行方不明になったと大騒ぎ。予定時刻より大幅に遅れての到着となったことで、関係者は大混乱に陥りました。先導役の警部の一人は責任を感じ、自決を図るも未遂に終わりました。

先導役の警部が道を誤った原因は、前日の前橋市での先導任務を終えた後、体調不良の代役として急遽桐生市の先導を任されたこと、そして事前の下見を行っていなかったことにありました。沿道の熱狂的な歓迎ムードに紛れて、警部自身も交差点での正しい方向への転進を見誤ってしまったのです。

事件後の対応と影響

この事件を受け、関係者への処分が下されました。群馬県知事をはじめ、警察関係者らへの減俸や譴責処分が内務省と群馬県によって行われました。

先導役の警部である本多重平氏は、未遂に終わったものの自決未遂の責任を問われ、減俸処分を受けました。しかし、その後は国民からの同情と支持を受け、国立療養所事務長などを務めるなど、公職に復帰。戦後、郷里で農業に従事し、1960年に亡くなりました。

この事件は、関係者のみならず、一般市民にも大きな衝撃を与えました。桐生市では「謹謝式」が営まれ、宮城遙拝が行われるなど、県民全体に大きな影響を与えました。事件後、群馬県知事は翌年1月に依願免官となり、後任の知事は敬神崇祖精神の高揚を図る政策を推進しました。

政治的影響

国会においても、野党は政府の責任追及を行いました。特に、群馬県知事と警察部長との対立が原因であるとして、内務大臣への批判が集中しました。当時首相であった岡田啓介は、この事件と翌年の議会で取り上げられた国体明徴論を結びつけ、「政党人の自己否定につながる行為」と批判しています。

群馬県議会においても、この事件は激しい議論を巻き起こしました。政友会と民政会の間で責任追及やその是非をめぐる紛糾が続きましたが、最終的には民政会が矛を収めることで沈静化しました。

まとめ

昭和天皇誤導事件は、警部の道案内のミスから始まった小さな出来事でしたが、当時の社会情勢や政治状況と絡み合い、大きな波紋を広げる結果となりました。この事件は、責任の所在や、当時の社会構造、そして対応のあり方について、今なお多くの議論を呼び起こす歴史的事件と言えるでしょう。 また、この事件は、単なる警察のミスというだけでなく、当時の社会の緊張感や、天皇への絶対的な忠誠心といった背景も理解する必要があるでしょう。この事件を通して、私たちは歴史における偶然と必然、そして人間の弱さについて改めて考えることができるのではないでしょうか。

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