時の流れに (ポール・サイモンのアルバム)

ポール・サイモンの音楽キャリアにおいて重要な位置を占めるアルバム『時の流れに』（原題: Still Crazy After All These Years）は、1975年に発表されました。このアルバムは、サイモンが多様な音楽性を追求し、フュージョンの要素を取り入れた意欲作として知られています。

特に注目されるのは、「マイ・リトル・タウン」で、長年のパートナーであるアート・ガーファンクルとのデュエットが実現しました。サイモン&ガーファンクルの解散後、二人が共にレコーディングしたのはこれが初めてであり、音楽ファンにとっては特別な瞬間となりました。この曲はアルバムに先駆けシングルとしてリリースされ、全米9位を記録。アート・ガーファンクルのソロ・アルバム『愛への旅立ち』（1975年）にも収録されています。また、柴門ふみの漫画作品『my little town』のタイトルは、この楽曲に由来しています。

「恋人と別れる50の方法」は、スティーヴ・ガッドがリハーサル中に偶然叩き出したリズム・パターンがそのまま採用されたというエピソードで知られています。このユニークなリズムに乗せて、サイモンの洗練された歌詞が展開され、楽曲の魅力を高めています。シングル・カットされると、1976年2月には全米1位を獲得する大ヒットとなりました。

アルバム全体としても高い評価を受け、グラミー賞では最優秀アルバム賞と男性ポップ・ボーカル部門の2部門を受賞しました。サイモン&ガーファンクル解散後、ポール・サイモンとして初のグラミー受賞となり、ソロアーティストとしての地位を確立する上で重要な作品となりました。

収録曲の中には、「もの言わぬ目」の別バージョンも存在し、アルバムの発売に先駆けて、ウォーレン・ベイティ主演の映画『シャンプー』に使用されました。このバージョンは、ボーカルがハミング中心で構成されており、アルバム版とは異なる魅力を放っています。

アルバムには、多彩なミュージシャンが参加しており、ポール・サイモン自身もボーカル、アコースティック・ギター、エレクトリックギターを担当しています。アート・ガーファンクルは「マイ・リトル・タウン」でボーカルを披露。その他、ピート・カー、ヒュー・マクラッケン、ジョン・トロペイ、ジョー・ベックらがエレクトリックギターで参加し、バリー・ベケット、ケニー・アスチャー、リチャード・ティー、ボブ・ジェームス、レオン・ペンダーヴィスらがピアノやエレクトリックピアノを担当しています。リズムセクションも豪華で、デヴィッド・フッド、トニー・レヴィン、ゴードン・エドワーズらがベースを、ロジャー・ホーキンス、スティーヴ・ガッド、グラディ・テイトらがドラムスを演奏しています。

収録曲は全てポール・サイモンによって作詞作曲されており、Side 1には「時の流れに」、「マイ・リトル・タウン」、「きみの愛のために」、「恋人と別れる50の方法」、「ナイト・ゲーム」が、Side 2には「哀しみにさようなら」、「ある人の人生」、「楽しくやろう」、「優しいあなた」、「もの言わぬ目」が収録されています。2004年のデジタル・リマスター盤には、「スリップ・スライディン・アウェイ（デモ）」と「哀しみにさようなら（デモ）」がボーナストラックとして追加されました。

「時の流れに」、「きみの愛のために」、「恋人と別れる50の方法」は、それぞれカレン・カーペンター、レイ・チャールズ、ビル・エヴァンス、ローズマリー・クルーニー、ブラッド・メルドーなど、多くのアーティストによってカバーされています。このアルバムは、時代を超えて愛される名盤として、音楽史にその名を刻んでいます。

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