時輪タントラ

時輪タントラ（カーラチャクラタントラ）

『時輪タントラ』（じりんタントラ、カーラチャクラタントラ）は、インド後期密教の重要な経典であり、「時の輪」を意味するカーラチャクラの教えを説いています。この教えは、宇宙論、神学、哲学、社会学、救済論、神話、予言、医学、ヨーガなど、多岐にわたる分野を網羅し、個人の心身変容を目指す実践体系です。

概要

カーラチャクラは、密教における守護神、哲学、ヨーガを指し、インドで生まれチベットで発展しました。その教えは、宇宙と社会の出来事が個人の身体と対応するという神話的な現実に基づき、ヨーガの実践を通して悟りへと導くことを目的とします。

『時輪タントラ』は、インド仏教ではヨーガニルッタラタントラ、チベット仏教では無上瑜伽タントラに分類されます。11世紀頃、イスラム勢力の侵入という仏教の危機に対抗するために編纂され、ヒンドゥー教勢力との共同戦線を提唱するという特殊な内容を含んでいます。

起源と成立

現代の研究では、『時輪タントラ』とその注釈書『無垢光』は、11世紀初頭に成立したと考えられています。羽田野伯猷や松本峰哲は、『時輪タントラ』が1027年までの60年間にインド以外の国で成立したという説を唱えています。

時輪教は、中観派の影響を受けた大乗仏教の非二元論を基盤としつつ、ヒンドゥー教など多様な伝統を取り入れています。釈迦自身が説いたとされるこの教えは、後期インド仏教において大きな勢力となり、既存の密教勢力との間で論争を巻き起こしました。

実質的な開祖は、『時輪タントラ』とその注釈書『無垢光』の作者たちであり、『無垢光』は『時輪タントラ』と同等の権威を持つとみなされています。『時輪タントラ』の作者はシャンバラの王ヤシャ、『無垢光』の作者はヤシャの息子プンダリーカとされています。

教えと実践

『時輪タントラ』では、12種類の風（ルン）が説かれ、六支瑜伽と呼ばれる六段階の修行法が実践されます。

1. 抑制
2. 禅定
3. 止息
4. 總持
5. 憶念
6. 三摩地

また、イスラム勢力の侵攻による仏教の衰退が予見され、理想郷シャンバラの概念や、未来における仏教復興の予言が説かれています。

暦法・天文学

カーラチャクラは「時間」を意味し、暦法や天文学も重要な要素です。その影響はチベット暦にも見られます。

シャンバラと出自の伝統説

チベット仏教では、シャンバラの王スチャンドラが釈迦から教えを授かり、以降の王たちによって受け継がれてきたとされます。シャンバラは、仏の化身が支配する理想郷として描かれています。

本尊

時輪金剛は、阿閦如来を本地とする守護尊であり、『時輪タントラ』の本尊として歓喜仏の姿で描かれます。

現代における大衆への灌頂

ダライ・ラマ14世は、チベット仏教の伝統を維持しつつ、西洋社会への理解を深めるため、一般大衆への灌頂を行っています。時輪教の教えは、世界平和への貢献を願う人々に開かれています。

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