晩鐘 (絵画)

油彩画『晩鐘』

《晩鐘》（ばんしょう）は、フランスの画家ジャン＝フランソワ・ミレーが1857年から1859年にかけて描いた油彩画です。この作品は、農民の生活や信仰をテーマにしており、今日でも多くの解釈がなされています。

制作の背景

ミレーはこの作品を制作していた頃、パリの喧騒を離れバルビゾン村に住んでいました。彼はそこで、農民を題材にした絵を描くことに専念していました。そんな中、1857年の初めに、アメリカの作家かつ美術収集家のトマス・ゴールド・アップルトンが彼のもとを訪れ、特別にこの作品を依頼しました。ミレー自身はカトリックの家庭で育ちましたが、『晩鐘』には典型的なカトリックの象徴やモチーフは見られず、代わりに宗教的な雰囲気が漂っています。アップルトンはリベラルなプロテスタント・ユニテリアン主義者であったため、彼の価値観が作品に反映されている可能性があります。

構図と解釈

この作品は、バルビゾンの近くにあるシャイイ＝アン＝ビエールの平原が舞台です。夕暮れ時に鳴り響く鐘の音を合図に、農民の夫婦が作業を止め、祈りを捧げる様子が描かれています。彼らは「主の御使い」から始まる祈りを唱え、その姿は深い感情と敬虔さを表現しています。1865年のパリでの展示の際、ミレーはこの絵を祖母の思い出とともに語りました。

この作品に対する解釈は多岐にわたります。処分されている夫は帽子を取っているものの、実際には祈りを捧げていないという考え方もあります。これは、当時の農村社会において宗教的な役割が女性に偏っていたことを示唆しているかもしれません。また、この絵を当時のアメリカの開拓民の貧しい生活と関連付ける見方も存在します。

特に、サルバドール・ダリはユニークな解釈を展開しました。彼は男性をカマキリのオスに例え、その生態的な運命を暗示したとされます。また、ダリはX線写真の分析を通じて、土の下に堕胎した嬰児の棺があるとの解釈も行いました。ただし、これには他の見解も存在し、ミレーが単に馬鈴薯の籠の位置を描き直した結果であるともされています。

作品の来歴

1857年の夏に作品は完成しましたが、アップルトンは絵を引き取ることがなかったため、ミレーは1860年にパプル男爵に1000フランで売却しました。その後、男爵はこの作品をブリュッセルの収集家アルフレッド・ステヴァンスに譲渡しました。1864年にはファン・プラエートが同じミレーの作品と交換に入手し、その後、さまざまな収集家の手を経て、最終的にはアメリカに渡り、熱烈な歓迎を受けました。

1890年にはフランスのデパート王アルフレッド・ショシャールが80万フランで購入し、その後、ルーヴル美術館に寄贈されました。1986年にはオルセー美術館に移管され、現在も多くの人々に親しまれています。

まとめ

『晩鐘』は、ミレーの農民画を代表する作品であり、その信仰や人生におけるさまざまな状況を映し出しています。時を超えて多くの人々に感動を与え続け、その解釈の豊かさが、この絵の魅力を際立たせています。

もう一度検索