暗夜行路

『暗夜行路』の詳細

概要

『暗夜行路』は志賀直哉によって書かれた長編小説であり、彼の唯一の作品として広く知られています。この小説は、1921年から1937年にかけて雑誌『改造』に連載されました。全4部から成るこの作品は、志賀直哉の晩年の精神を反映した穏やかな心境小説の頂点とされています。明確なテーマと深い心理描写が特徴で、近代日本文学の重要な作品として名を馳せています。志賀はもともと1914年に『東京朝日新聞』に連載する予定でしたが、様々な経緯により26年の歳月を経て完成を見ました。

あらすじ

前篇

この小説の主人公、時任謙作は、幼少期に両親から愛される体験をほとんど持たず、6歳の時に祖父に引き取られます。成長した謙作は作家となり、幼馴染の愛子に求婚しますが、愛子の母親や兄に突然、別の縁談が持ち込まれ、愛子は他の男性と結婚してしまいます。この出来事がきっかけで、謙作は女性に対する気持ちを抑えるようになり、長い間放蕩生活を送り、祖父の妾のお栄に家事を任せる日々を続けます。しかし、彼はふとしたことから尾道に移り住み、新しい生活を始めることを決意します。そこで彼はお栄と結婚したいという思いを抱くようになりますが、兄からの手紙で自分の出生の秘密を知り、苦悩に苛まれます。主人公は真面目に生きようとするが、再び堕落した生活に戻っていくのです。

後篇

その後、謙作は京都に移り、新たに直子という女性に出会います。直子の親族に自身の出生の秘密を明かすと、彼らはこの秘密を受け入れ、二人は結婚します。幸せな日々を送っていたものの、謙作の過去が再び影を落とします。お栄が天津で困窮していることを知った彼は、彼女を引き取るために旅に出かけますが、その留守中に直子が従兄と不倫を犯してしまいます。謙作は直子を許しますが、二人の関係はぎくしゃくしていきます。気分転換のために山の離れに別居生活を始めた謙作は、自然の感動を経験しつつも、高熱に倒れてしまいます。直子は彼のそばに寄り添い、自身の決意を新たにするのです。

執筆の経緯

この物語は、志賀直哉が尾道での生活の中で書き始めました。当初、彼は夏目漱石に依頼され『時任謙作』を連載する予定でしたが、連載特有のスタイルに苦しみ、連載を辞退しました。その後、自身の家庭の問題や主人公のアイデンティティに関する新しい発想を得て、しだいにこの作品の執筆に取り掛かります。

作品は、1921年に『改造』に掲載が開始され、最終的に1937年に完結を見ました。執筆開始から26年、連載開始から17年の歳月を経た功績として、本作が世に出されることになりました。

有名なシーン

『暗夜行路』には記憶に残るシーンが多く存在します。前篇の最後で、「豊年だ! 豊年だ!」と叫ぶ謙作、または大山での自然描写において、志賀が数十年前に体験したことが色鮮やかに描かれています。この作品は日本文学史の中でも特筆すべき名作となっています。

映画化

また、この小説は1959年に映画化され、豊田四郎監督によって映像作品としても観客を魅了しました。キャストには池部良、山[[本富士子]]、淡島千景などが名を連ねています。

『暗夜行路』は、志賀直哉の深い哲学的な洞察や人間ドラマを通じて、一人の人間の内面的成長と苦悩を見事に描き出した作品として、今も多くの読者に愛され続けています。

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