暗黒の掟

1980年、ロック界を席巻していたヴァン・ヘイレンが、彼らにとって3作目となるスタジオ録音アルバム『暗黒の掟』（原題: Women and Children First）を発表しました。この作品は、バンドのキャリアにおいて、いくつかの重要な変化を示唆する一枚として位置づけられています。

本作の最大の特色は、その収録曲全てがバンドメンバー自身の手によって生み出されたオリジナル楽曲であるという点です。これまでのアルバムにはカヴァー曲も含まれていましたが、『暗黒の掟』では外部の楽曲を一切排除し、純粋にヴァン・ヘイレン独自のサウンド世界を追求しています。これは、バンドがクリエイターとしての自信を深め、その音楽的方向性を確立しようとする姿勢の表れと言えるでしょう。

音楽的な雰囲気においても、このアルバムは前2作とは一線を画しています。初期の作品に顕著だった、明るく享楽的なパーティーロックの要素に加え、より重厚で、時に影を帯びた、ダークなトーンを持つ楽曲の比重が高まっているのが特徴です。ある著名な音楽レビューサイトでは、初期の「純粋なパーティー・アルバム」という位置づけから、この作品によってバンドが「成熟した、あるいはいくぶんシリアスな方向へ必然的に変化した」と評されています。これは、バンドが単なるロックンロールの快楽だけでなく、より幅広い感情や表現を探求し始めた証拠と言えます。

アルバムには、バンドの多様な音楽性が詰まった楽曲群が収録されています。例えば、非常に短いインストゥルメンタルである「トラ! トラ!」は、次に続くスリリングな楽曲「理由なき暴走」への序曲として機能しています。また、「戦慄の悪夢」では、ブルースを基調としたサウンドに、エドワード・ヴァン・ヘイレンの巧みなスライドギターがフィーチャーされており、バンドのルーツの一つを垣間見ることができます。アルバムからのシングルカット曲「ロックン・ロール・ベイビー」は、キャッチーなコーラスワークとドライブ感溢れる演奏で、多くのリスナーにバンドの存在感をアピールしました。他にも、「エヴリバディ」や「フールズ」といった、彼ららしいエネルギーと演奏力が光る楽曲が並びます。

商業的な成功も収めており、リリースされるや否や、全米アルバムチャートで最高位6位を記録しました。シングル「ロックン・ロール・ベイビー」も全米チャートで55位にランクインし、アルバムのプロモーションに貢献しました。

『暗黒の掟』の制作には、不動のラインナップである以下の4人のメンバーが参加しています。

デイヴィッド・リー・ロス（ボーカル）
エドワード・ヴァン・ヘイレン（ギター、キーボード）
マイケル・アンソニー（ベース）
アレックス・ヴァン・ヘイレン（ドラムス）

この強力な布陣が、本作に収録された革新的かつ挑戦的なサウンドを実現しました。

『暗黒の掟』は、ヴァン・ヘイレンがその音楽性を拡大し、単なるパーティーバンドから、より深く多面的な表現を追求するバンドへと進化していく過程を示す、重要な足がかりとなったアルバムです。彼らのディスコグラフィーの中でも、特にその音楽的成熟度において注目すべき作品と言えるでしょう。

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