曳航ソナー

曳航式アレイ・ソナー（TASS）

曳航式アレイ・ソナー（Towed Array Sonar System, TASS）は、パッシブ・ソナーの一種で、受波器を自艦から一定の距離離して曳航し探知する方式です。この技術は、音波を利用して潜水艦等を探知することを目的としています。最も大きな特徴は、長大なアレイによって探知の精度を向上させる点です。

来歴

アメリカ海軍は、1960年代からリニアアレイ・ソナーによる長距離探知の研究に着手し、1967年にAN/SQR-14が初めて配備されました。1971年にはAN/SQR-15が続き、1980年代には戦術レベルのTACTASSや戦略レベルのSURTASSが導入されました。これらの発展は、潜水艦の静粛化が進む中、より多様な探知手法が求められた背景によるものです。最近では、可変深度ソナー（VDS）との組み合わせも新たに開発され、効果的な探知能力を実現しています。

設計

長大なアレイ

曳航式アレイは、艦船からの距離を調整することで、周囲の雑音からの影響を最小限に抑えることができます。また、艦船のサイズに制約されずにアレイを長くすることで、低周波を効果的に捉えることが可能になります。例えば、AN/UQQ-2 SURTASSは8,575フィート（約2,614メートル）の長さを持ち、戦略的な広域捜索に使用されます。一方、調査船に搭載される場合、地震探査用に数百フィートの長さのケーブルに24組以上のハイドロフォンが取り付けられることがあります。これにより、詳細な海底地質調査も実現されます。

しかし、アレイが長くなることで母艦の運動性が損なわれ、ケーブルの巻き出しや巻き取りに時間を要するという課題も存在します。さらに、特にSURTASSのような大型アレイでは、荒天時に艦の動揺がアレイの直線性を損ない、探知効率が低下する恐れがあります。このため、SWATH船形状の採用など、設計面での工夫が行われています。

アンビギューティの問題

曳航式アレイには、音波を捉えてもその方向を特定することが難しいという「アンビギューティ」の課題があります。このような場合、母艦の進行方向を変えることで目標の方位を変更し、交差方位法で真の方位を判断する手法が採用されます。これを「アンビギューティ除去」と呼びます。

この方法では、アレイが直線状であることが前提であるため、変針後に艦を一定の直進させてアレイを整える必要があります。しかし、最近では深度センサーや方位センサーをアレイ内に組み込む技術が開発され、変針中でも柔軟なビーム形成が可能な機種も登場しています。さらに、複数のハイドロフォンを組み合わせることで指向性を持たせる手法も考案されていますが、これは信号の感度に対する影響が指摘されることもあります。

雑音の管理

曳航式アレイは、周囲の環境ノイズや自身の構造による雑音の影響を受けます。特に、曳航中の振動による加速度応答や水圧の変動に起因する自己雑音の問題が顕著です。日本の86式えい航式パッシブソーナーOQR-1では、受波器の振動の影響を抑える技術が確立され、流体雑音の低減を図っています。アメリカ海軍では、流体雑音が低い低速時には細長いアレイ、高速時には太短いアレイを使用するなど、運用環境に応じた使い分けが行われています。

代表的な機種

• - アメリカ：AN/SQR-18/19 TACTASS、AN/UQQ-2 SURTASS、AN/SQR-20 MFTA
• - イギリス：2031型ソナー、2087型ソナー
• - フランス：DSBV-61/62、DSBX-1 SLASM、CAPTAS
• - 日本：86式えい航式パッシブソーナーOQR-1

このように、曳航式アレイ・ソナーは、音響探知の分野において重要な役割を果たしており、設計や運用方法の工夫が進められています。

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