書剣恩仇録

『書剣恩仇録』は、金庸が最初に手掛けた武侠小説であり、1955年から1956年にかけて香港の新聞『新晩報』に連載されました。当時、香港では武術熱が高まっており、その流れの中で、金庸の同僚であった梁羽生が先に『龍虎闘京華』を連載し、新たな武侠小説の時代を切り開きました。その後に金庸が執筆を開始したのが、この『書剣恩仇録』です。

物語の舞台は18世紀の清朝最盛期。乾隆帝の時代です。物語は、乾隆帝が実は漢民族の血を引いているという民間伝承（乾隆帝漢人説）と、伝説の美女である香妃の逸話を絡めながら、清朝打倒を目指す反清組織「紅花会」と、ウイグル族による反清闘争が描かれています。民族と国家、個人と国家の矛盾を重要な主題としており、異民族による中国支配への抵抗、武林の各門派の抗争、そして男女間の恋愛模様など、様々な要素が壮大な歴史活劇の中に盛り込まれています。

主な登場人物

陳家洛（ちんかろく）: 紅花会の二代目総舵主。文武両道に秀でた貴公子であり、数奇な運命に導かれ、清朝と対峙します。
乾隆帝（けんりゅうてい）: 清朝第六代皇帝。自らの出生の秘密を知る紅花会の文泰来を捕らえ、秘密を隠そうとします。
ホチントン（霍青桐）（かくせいとう）: 回族の族長ムジョルンの長女。「翠羽黄衫」と呼ばれる美貌の持ち主で、天山派の剣法を使い、陳家洛に恋心を抱きます。
カスリー（香香公主）（こうこうこうしゅ）: 回族の族長ムジョルンの次女。天性の美貌を持ち、「香香公主」と呼ばれます。
于万亭（うばんてい）: 紅花会の前総舵主。陳家洛の養父であり、後継者に指名しました。
無塵道人（むじんどうじん）: 紅花会第二位。隻腕の剣客で「追魂奪命剣」の使い手です。
趙半山（ちょうはんざん）: 紅花会第三位。暗器の名手で「千手如来」と呼ばれています。
文泰来（ぶんたいらい）: 紅花会第四位。乾隆帝の出生の秘密を知ったため、朝廷に追われる身となります。
常赫志（じょうかくし）: 紅花会第五位。「西川双俠」の一人で「黒沙掌」の使い手です。
常伯志（じょうはくし）: 紅花会第六位。常赫志の双子の弟で同じく「黒沙掌」の使い手です。
徐天宏（じょてんこう）: 紅花会第七位。知略に優れ、紅花会の軍師的存在です。
楊成協（ようせいきょう）: 紅花会第八位。鉄のような肉体を持つ大男です。
衛春華（えいしゅんか）: 紅花会第九位。命知らずの意気盛んな青年です。
章進（しょうしん）: 紅花会第十位。怪力の持ち主の熱血漢です。
駱冰（らくひょう）: 紅花会第十一位。文泰来の妻で「鴛鴦刀」の使い手です。
石双英（せきそうえい）:紅花会第十二位。紅花会の仕置き役。「鬼見愁」と呼ばれています。
蒋四根（しょうしこん）:紅花会第十三位。水上戦に強い紅花会の一員。
余魚同（よぎょどう）: 紅花会第十四位。駱氷に恋心を抱く美青年です。
陸菲青（りくひせい）: 武当派出身の侠客で、李沅芷の師。
李沅芷（りげんし）: 朝廷高官の娘で、陸菲青の弟子。
張召重（ちょうしょうちょう）: 武当派出身で、朝廷に仕える武芸の達人です。

あらすじ

清朝最盛期、紅花会の総舵主である于万亭は、死の間際に陳家洛を後継者に指名します。陳家洛を新たな総舵主に迎えるため、紅花会の仲間たちは西域へ向かいますが、その途中で文泰来が乾隆帝の出生に関する秘密を知り、朝廷の刺客に襲われ捕らえられてしまいます。陳家洛率いる紅花会は、文泰来を救出し、乾隆帝の秘密を暴くために、清朝との激しい戦いに身を投じていきます。

用語解説

滅満興漢（めつまんこうかん）: 満州族を追い払い、漢民族の王朝を復興させようとする革命思想。
* 乾隆帝漢人説（けんりゅうていかんじんせつ）: 乾隆帝が実は漢民族の血を引いているという民間伝承。

『書剣恩仇録』は、金庸の初期の作品でありながら、後の金庸作品に共通する要素が数多く見られます。歴史的な背景と武侠の世界が見事に融合した壮大な物語は、多くの読者を魅了し続けています。



映像化作品

『書剣恩仇録』は、映画やテレビドラマ、漫画など様々なメディアで映像化されています。1960年の香港映画を皮切りに、数多くの作品が制作され、それぞれの時代で多くのファンを魅了してきました。特にテレビドラマは、香港や台湾、中国本土で何度もリメイクされており、人気を博しています。

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