金庸

金庸：武侠小説の巨匠とその時代

金庸（きんよう、本名：査良鏞（さ りょうよう）1924年3月10日 - 2018年10月30日）は、20世紀後半を代表する香港の小説家であり、ジャーナリスト、そして文化人です。彼の名は、武侠小説というジャンルを新たな高みへと導いた巨匠として、中国語圏のみならず世界中に知られています。金庸という筆名は、本名の「鏞」を分解して作られたものです。

波乱の生涯：外交官の夢から武侠小説家へ

浙江省出身の金庸は、当初外交官を目指し、中央政治大学で学んでいました。しかし、不正を告発したことで退学を余儀なくされ、その後はジャーナリストとして様々な新聞社を渡り歩きます。杭州の『東南日報』、蘇州の東呉大学法学院、そして香港の『大公報』など、彼のキャリアは多岐に渡り、そこで培われた経験は後の小説執筆に大きく影響を与えました。

中国共産党の成立後、金庸は外交官としての道を模索しますが、その願いは叶いませんでした。父親の逮捕という困難も経験し、夢を諦めた彼は香港に戻り、記者として働き始めます。同僚の武侠小説家、梁羽生の影響もあり、1955年、金庸は自身の処女作『書剣恩仇録』を発表します。この作品を皮切りに、彼は次々と傑作を発表し、瞬く間に人気作家へと上り詰めていきました。

『明報』の創刊と激動の時代

1959年、金庸は独立して『明報』を創刊します。当初は娯楽紙としての側面が強かった『明報』ですが、時代の変遷とともに中道的な新聞へと変貌を遂げ、香港社会に大きな影響力を持つメディアへと成長しました。金庸は『明報』で武侠小説の連載と社説の執筆を同時に行い、作家として、ジャーナリストとして、社会に発言し続けました。文化大革命時には共産党政権を批判し、激しい論争を繰り広げたこともありました。

香港の中国返還を巡る問題では、香港基本法起草委員会の委員を務めますが、天安門事件を機に委員を辞任するなど、一貫して自らの信念を貫き通しました。

金庸の武侠小説：歴史と文学の融合

金庸の作品は15の長編を中心に、歴史を背景に数々の実在の人物と架空のキャラクターが織りなす壮大な物語です。民族間の葛藤や社会問題を巧みに織り込みながらも、客観的で平等な視点から描かれる登場人物たちは、読者に深い感銘を与えました。それまでの低俗な大衆小説というイメージを覆し、文学作品としての高い評価を得て、「金学」と呼ばれる研究分野まで生まれるほどです。

彼の作品は、映画、テレビドラマ、漫画、ゲームなど様々なメディアに展開され、現代中国の娯楽文化に多大な貢献を果たしました。1995年には「二十世紀中国文学大師文庫」で魯迅、沈従文、巴金に続く第4位に選出されています。

多彩な活動と栄誉

小説家としての活動以外にも、金庸は香港を代表する文化人として、様々な分野で活躍しました。オックスフォード大学の客員教授や浙江大学人文学院長を務めるなど、その活動は多岐に渡ります。また、イギリス政府からO.B.E.、フランス政府からレジオンドヌール勲章など、数々の栄誉に輝いています。

日本における金庸

日本では、徳間書店が金庸作品を翻訳・出版し、広く紹介する役割を果たしました。日本語訳された作品は多くの人々に読まれ、金庸の文学的功績を日本でも知らしめることに繋がりました。また、金庸自身も日本を訪問し講演活動を行うなど、日本との交流も深めていました。

金庸の遺産

金庸の死後も、彼の作品は世界中の人々に読み継がれ、その影響は計り知れません。武侠小説というジャンルを超え、中国文化、そして世界文学史に燦然と輝く金庸の功績は、これからも多くの人々にインスピレーションを与え続けるでしょう。

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