書物の聖母

『書物の聖母』：ボッティチェッリの優美な聖母子像

サンドロ・ボッティチェッリの『書物の聖母』（伊: Madonna del Libro）は、ルネサンス期のイタリアで制作された、板にテンペラで描かれた小さな絵画です。現在、ミラノのポルディ・ペッツォーリ美術館に所蔵されており、1480年から1481年の間に描かれたと考えられています。

作品の概要

この絵画は、聖母マリアと幼子イエスが部屋の隅の窓辺に座っている様子を描いています。聖母は時祷書「Horae Beatae Mariae Virginis」を持っており、幼子イエスは聖母を見つめています。聖母と幼子の両手は同じように配置されており、右手は祝福のジェスチャーのように開き、左手は閉じられています。幼子は、キリストの受難を象徴する十字架の3本の釘と茨の冠を持っています。これらの象徴は、絵画の意味をより明確にするために後から追加された可能性が指摘されています。この表現は、キリスト教美術における伝統的なものです。

さらに、ボウルの中の果物も象徴的な意味を持っています。サクランボはキリストの血や楽園を、プラムは聖母とイエスの間の愛情を、イチジクは復活を象徴しています。聖母の衣服に使われている青色は、純粋さ、天国、王族を象徴する伝統的な色です。ボッティチェッリは、聖母を真剣で思慮深く、意識を集中しているように描いています。

ボッティチェッリの作風

ボッティチェッリは、この絵画で繊細さと細部へのこだわりを示しています。マヨリカ焼きのボウルや、瑞々しい果物、本のページ、衣服、そして透明なベールは、質感豊かに描かれています。画面全体のバランスが取れており、洗練された構図が特徴です。彼は微妙に異なる色調で描き、色彩を美しく組み合わせています。また、衣服や物の縁には細金細工が施されています。これは、当時の依頼主との契約によるもので、絵画の価格に含まれていました。

この絵画は、ボッティチェッリの成熟した詩的なスタイルを示しており、繊細で優雅な線描は、画家の晩年の作品に見られる哀愁とは異なる特徴を持っています。作品を依頼した人物は不明です。

作品の背景と修復

この作品は、光、形、空白部分の相互関係によって、非常に優美な雰囲気を持っています。近年の修復作業により、長年ニスの層に覆われていた明るい空と朝の光が再び見えるようになりました。この修復によって、絵画は新たな発見として再評価されるようになっています。

『書物の聖母』は、ボッティチェッリが1470年以前に制作した他の聖母子像を想起させ、フィリッポ・リッピの『聖母子と天使』から影響を受けた可能性も指摘されています。

作品の再評価と影響

19世紀に入ると、『書物の聖母』は再び注目を集めました。その「並外れた美しさ」は、イタリア統一運動（リソルジメント）の時代に、国民的アイデンティティの源を求めるイタリア人に特に響きました。ボッティチェッリの愛好家であるジャン・ジャコモ・ポルディ・ペッツォーリは、自身の個人コレクションと邸宅を公共のものとして遺贈し、現在、ポルディ・ペッツォーリ美術館でこの作品を鑑賞することができます。

ポルディ・ペッツォーリ美術館の館長であるアナリーザ・ザンニ博士は、『書物の聖母』に見られるボッティチェッリの技術と素材の使用について、近年、新たな発見をしています。例えば、ボッティチェッリが使用した青色の最上層がラピスラズリであることを突き止めました。これは非常に貴重で高価な素材であり、高貴な顧客からの依頼があったことを示唆しています。

『書物の聖母』は、ボッティチェッリの芸術的才能と、ルネサンス期の芸術における象徴的な表現の豊かさを物語る傑作です。

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