テンペラ

テンペラとは

テンペラとは、乳化作用を持つ物質を固着材として使用する絵具、およびその技法のことです。ラテン語の「temperāre（混ぜ合わせる）」を語源とするイタリア語「tempera」が由来です。

テンペラの多様な種類

テンペラには様々な種類が存在しますが、代表的なものとして以下の3つが挙げられます。

卵テンペラ: 乳化剤として鶏卵を用いる最も一般的なテンペラ技法です。
蝋テンペラ: 蜜蝋やカルナウバ蝋を鹸化して使用します。
カゼインテンペラ: カゼインを乳化剤として使用します。

卵テンペラの詳細

卵テンペラは、その代表的な技法であり、特に卵黄を用いたものが古くから使われています。卵黄にはレシチンやアルブミンといった乳化作用を持つ物質が含まれているため、水と油を混ぜても分離しない性質を利用しています。

卵テンペラには以下の分類があります。

卵黄テンペラ: 卵黄と顔料を混ぜたもので、不透明で明るい色味が特徴です。金地テンペラ画によく使われました。
卵白テンペラ: 卵黄の色味を避けたい場合に使用されます。アイロンをかけることで画面が堅牢になります。
テンペラ・グラッサ: 卵黄に油を混ぜたもので、光沢や濡れ色、柔軟性が増し、画面がより堅牢になります。
混合技法メディウム: 卵黄テンペラとグラッサの中間的な油分を含むテンペラで、油絵具との混合技法に適しています。
練り込みテンペラ: 卵黄に油、膠、小麦粉糊などを加えたもので、厚塗りに適しています。

卵テンペラの媒材の処方

14世紀の技法書『絵画術の書』には、卵黄1個に対して等量の水という処方が記されています。時代が進むにつれて、乾性油や樹脂が添加されるようになりました。20世紀初頭には、マックス・デルナーが「水と混ぜられる卵脱脂テンペラ」の処方を示しています。

全卵
卵と等量の油、または油と樹脂ワニス
卵と等量から三倍程度の水

防腐剤として酢、卵白テンペラにはグリセリンが加えられることもあります。また、古くは乾きを遅らせるためにイチジクの乳液や白ワインが使われたこともありました。

カゼインテンペラの特徴

カゼインは、絵の目止めやメディウム、接着剤として使用され、乳化作用を持ちます。乾燥後は耐水性となり、温度の影響を受けにくい性質を持ちます。液状ではアルカリ性ですが、乾燥すると中性に近くなります。ただし、加熱や水には溶けず、アルカリ溶剤で糊状にして使用する必要があります。膠テンペラに比べて若干脆いですが、色は鮮やかです。

膠テンペラの特徴

膠は、卵やカゼインと同様に乳化作用を持つ素材です。アイシングラスと呼ばれる魚の浮き袋を原料とする膠も使用されます。ただし、膠は耐水性がないため、亀裂を生じやすく、単独で使用されることはほとんどありません。添加物として、明礬と水と膠を混ぜたドウサ水や油を加えて使用します。

テンペラによる絵画作品

イタリアルネサンス初期には、ジョット、フラ・アンジェリコ、ボッティチェリなどがテンペラで作品を残しました。レオナルド・ダ・ヴィンチも『最後の晩餐』で使用しましたが、壁画には不向きで、劣化が進んでしまいました。油彩画の登場後、テンペラは一時的に衰退しましたが、20世紀に入ると、パウル・クレーやワシリー・カンディンスキーらが油彩との併用による混合技法を試みました。アンドリュー・ワイエスは、純粋なテンペラ技法の作品で注目を集めました。

日本におけるテンペラ画家

日本でもテンペラを使用する画家がいます。

佐藤一郎
赤木範陸（蝋テンペラ）
大矢英雄
平沢貞通
建石修志
安達博文
匂坂祐子
小山右人
小川泰弘
妹尾一朗
瀬本容子

まとめ

テンペラは、歴史ある絵画技法であり、その耐久性や鮮やかな色彩から、現代でも多くの画家によって使用されています。様々な種類が存在し、それぞれに特徴があるため、表現したいイメージに合わせて適切な技法を選択することが重要です。

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