曾侯乙墓

曾侯乙墓：戦国時代の知られざる王家の遺産

湖北省随州市曽都区で発見された曾侯乙墓は、戦国時代初期（紀元前433年頃）の諸侯、曾侯乙の墓です。1977年、空軍営舎建設中の発破作業中に偶然発見されました。当初は発見の重要性が認識されませんでしたが、関係者の粘り強い働きかけにより、本格的な発掘調査が開始されました。発掘調査は困難を極め、泥水に浸かった墓から、貴重な遺物を次々と取り出す作業となりました。

墓の構造と墓主

曾侯乙墓は「卜」のような形状をした竪穴墓で、南北16.5メートル、東西21メートルという大規模なものでした。墓主である曾侯乙は、45歳前後の男性と推定されています。21人の女性（13～25歳）が殉葬されており、当時の社会構造の一端を垣間見ることができます。墓から出土した銅鐘の銘文により、墓主が曾国の君主「乙」であると特定されました。

膨大な出土遺物

曾侯乙墓からは、青銅器、楽器、兵器、金器、玉器、車馬器、漆器、木器、竹器、そして240枚にも及ぶ竹簡など、実に15404点もの遺物が発見されました。その中には、8点が国宝に指定されるほどの貴重な品々が含まれています。これら遺物は、曾国の高度な青銅器製造技術や、当時の文化、社会、宗教、音楽などを知る上で、極めて重要な資料となっています。

主要な出土遺物

曾侯乙編鐘: 65個の青銅製の鐘を3段の枠に並べた楽器で、「曾侯乙作持」の銘文と音階・音律に関する記述があり、音楽史研究に多大な貢献をしています。その精緻なつくりと美しい音色は、現代においても高く評価されています。
曾侯乙編磬: 「へ」字形の石板を青銅製の架に吊り下げた楽器です。編鐘とともに、当時の音楽文化を知る手がかりとなっています。
曾侯乙大鼎: 「曾侯乙作持用終」の銘文を持つ大きな鼎で、祭祀などに使われたと考えられています。
鴛鴦形漆盒: 美しい装飾が施された漆製の箱で、当時の高度な漆器製作技術を示しています。
曾侯乙之走戈: 「曾侯乙之走戈」の銘文を持つ戈で、武器として用いられていたと考えられています。
竹簡: 240枚、6696字の竹簡には、車馬や武器甲冑に関する記録が残されており、当時の軍事や社会組織に関する貴重な情報が記されています。

曾侯乙墓の意義

曾侯乙墓の発掘は、中国考古学、とりわけ戦国時代の歴史と文化を理解する上で、画期的な出来事でした。出土した膨大な遺物は、曾国の繁栄ぶりと高度な技術力を示すとともに、当時の社会構造や文化、音楽、思想など、多岐にわたる情報を提供してくれています。その後の研究は、中国史研究に大きな影響を与え続け、その歴史的価値は今もなお高く評価されています。発見から研究、そして公開に至るまでの過程も、多くの困難と努力を伴った貴重な経験と言えます。曾侯乙墓は、単なる墓ではなく、戦国時代の歴史と文化を解き明かす鍵となる、貴重な遺産なのです。

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