最も近い共通祖先

最も近い共通祖先：生物進化と歴史を繋ぐ概念

生物の進化において、複数の個体や種を繋ぐ重要な概念に「最も近い共通祖先」があります。これは、ある集団の全てのメンバーを子孫として持つ祖先のうち、最も新しい（現在に近い）個体または集団を指します。分岐学では、個体間の最も近い共通祖先をMRCA（Most Recent Common Ancestor）、種間のそれをLCA（Last Common Ancestor）と呼びます。 ただし、厳密な使い分けは必ずしもなされていません。

個体間の最も近い共通祖先（MRCA）

個体間のMRCAは、系図をたどることで特定できます。例えば、兄弟のMRCAは両親、いとこのMRCAは共通の祖父母です。有性生殖をする種では、MRCAは夫婦となる場合もあります。一夫一妻制であれば、常に夫婦がMRCAとなります。

集団におけるMRCAを考える際には、「現生」という限定が重要です。これは、死んだ個体を含めるとMRCAが過去に遡るためです。例えば、現生人類のMRCAを議論する際には、現在生きている全ての人類のMRCAを指します。

ミトコンドリア・イヴとY染色体アダムは、それぞれ現生人類のミトコンドリアDNAとY染色体のMRCAを持つ女性と男性です。しかし、彼らは現生人類全体のMRCAではありません。母系もしくは父系の系統のみを追跡した結果であり、現生人類全体のMRCAは、母系と父系の両方の系統を含む、より新しい共通祖先となります。

種間の最も近い共通祖先（LCA）

複数の種のLCAは、種間の分岐関係に基づいて定義されます。個体間の系図は考慮しません。一般的に、種のLCAは、その種に属する個体としてのMRCAを含むと考えられます。ただし、種が短時間で急速に分岐する特殊なケースを除きます。

現生哺乳類のLCAといったように、ある系統全体のLCAを考えることもできます。この場合、その系統に含まれる全ての種のLCAを指します。

全ての現生生物のLCA：LUCA

全ての現生生物の最も近い共通祖先は、LUCA（Last Universal Common Ancestor）と呼ばれます。これは最初の生命とは異なります。最初の生命はLUCAよりもはるかに古く、「最も遠い」共通祖先と言えるでしょう。

遺伝子の最も近い共通祖先

生物だけでなく、遺伝子にも最も近い共通祖先を定義できます。複数の個体や種が持つ相同遺伝子、あるいは遺伝子重複によって生じた同じ個体内の複数の遺伝子にも、MRCAを定義できます。

単純に考えると、遺伝子のMRCAは、その遺伝子を持つ個体のMRCAが持っていた遺伝子と一致するように思えます。しかし、有性生殖では遺伝子の親子関係は単純な分岐であるのに対し、個体の親子関係は複雑な網目状であるため、遺伝子のMRCAは個体のMRCAよりも古い可能性があります。ミトコンドリア・イヴとY染色体アダムは、本質的には遺伝子のMRCAです。

種間の場合、遺伝子のLCAは通常、種のLCAが持っていた遺伝子です。しかし、遺伝子重複と遺伝子の消失が種ごとに異なると、遺伝子のLCAは種のLCAよりはるかに古くなる可能性があります。

相続・継承との関連

皇位継承や王位継承などの相続においても、最も近い共通祖先の概念は適用できます。特定の血統に限定される場合、その血統の権利保有者のMRCAは、その血統の始祖となります。

イギリス王位継承や日本の皇室の系図、旧皇族の系図などは、この概念を用いて分析できます。それぞれの歴史的背景や制度を考慮することで、MRCAの特定や、歴史的な事実との関連付けが可能です。これらの例は、最も近い共通祖先の概念が、生物学の枠を超えて、歴史や社会構造の理解にも役立つことを示しています。

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