最後の晩餐 (ルーベンス)

ピーテル・パウル・ルーベンスの「最後の晩餐」

ピーテル・パウル・ルーベンスによって描かれた油絵『最後の晩餐』は、バロック時代のフランドル美術を代表する作品の一つです。この作品は、カテリーネ・レスクイエルが亡き父を偲び、メヘレンの聖ロンバウツ教会の祭壇画としてルーベンスに依頼したもので、イエス・キリストが弟子たちと最後の晩餐を共にする場面を描いています。

構図と人物描写

この絵画の中心となるのは、食卓を囲むイエスと使徒たちです。特に目を引くのは、青い衣をまとい、鑑賞者に背を向けるように描かれたイスカリオテのユダです。彼は右手を口元にあて、他の人物たちと視線を交わさないことで、自身の内面の葛藤や不安を表しています。イエスは赤い衣をまとい、頭上には光輪が輝き、天を仰ぎ見る姿で描かれています。食卓にはパンとワインが置かれており、これは最後の晩餐の重要な要素である聖餐の儀式を象徴しています。画面全体で最も光が当たるイエスに対し、最も左端に描かれた人物は影の中に隠れており、光と影のコントラストが劇的な効果を生み出しています。

神学的解釈

この作品は、最後の晩餐の神学的な重要性を完璧に表現していると評されています。パンとワインの祝福、そして裏切りという、晩餐における二つの重要な側面を同時に描いています。また、画面の片隅に描かれた犬は、信仰の象徴であると同時に、ユダの足元にいることから、貪欲さや邪悪さを暗示しているという解釈も存在します。

ルーベンスの制作背景と影響

ルーベンスは、この作品以前にも最後の晩餐をテーマにした絵画を試みましたが、報酬を巡るトラブルで実現しませんでした。しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は、ルーベンスに大きな影響を与え、彼はその模写版画も制作しています。この版画制作を通して、ルーベンスは人物の感情表現に挑戦し、後の作品に繋がる重要な経験となりました。また、ルーベンスは人文主義的な思想にも影響を受け、聖書の主題を独自に解釈しました。

版画と模写

ルーベンスは、自身の作品を版画にして広めることを積極的に行っていました。これは、他の画家たちが自作の参考にするためだけでなく、収集家たちの間でルーベンスの名声を高める要因となりました。こうした版画や模写は、ルーベンスの作品がより広く知られるきっかけとなり、後世の美術家たちにも大きな影響を与えました。

まとめ

ルーベンスの『最後の晩餐』は、バロック美術の力強い表現と、聖書の主題を深く掘り下げた解釈が融合した傑作です。ルーベンスの画家としての才能だけでなく、人文主義的な視点や版画制作への意欲が、この作品をより豊かなものにしています。彼の版画は、その作品が時代を超えて愛される理由の一つとなっています。

参考文献

Alpers, Svetlana. "Review by: Sveltana Alpers." Renaissance Quarterly 35, no. 1 (Spring 1982): 114.
Freedberg, David. "The Last Supper." In Peter Paul Rubens: Oil Paintings and Oil Sketches. New York: Gagosian Gallery, 1995
Judson, Lindsay. The Passion of Christ. Washington DC: Harvey Miller Publishers, 2000.
Mulvihill, Maureen E. "Peter Paul Rubens: Impressions of a Master Exhibition." Seventeenth-Century News 70, no. 1-2 (Spring-Summer 2012): 76.
Tummers, Anna. Art Market and Connoisseurship: A Closer Look at Paintings by Rembrandt, Rubens, and Their Contemporaries. Amsterdam: Amsterdam University Press, 2009.
Viladesau, Richard. The Pathos of the Cross: The Passion of Christ in Theology and the Arts - The Baroque Era. Oxford: Oxford University Press, 2014.

外部リンク

Drawn by the Brush: Oil Sketches by Peter Paul Rubens -
"Last Supper" from 'Essex Coll. of Prints, Vol. I' c.1650 - Hunterian Museum & Art Gallery William Hunter Collections
* Pieter Paul Rubens Nelle Incisioni - On the Engravings

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