服部まゆみ

服部まゆみは、1948年10月14日に東京都で生まれた日本の小説家、推理作家、恋愛小説家、そして銅版画家でした。多岐にわたる芸術的才能を持ち、その生涯は文学と美術の両方に彩られています。

現代思潮社美学校で学んだ後、彼女は銅版画の道に進み、著名な銅版画家である加納光於に師事しました。銅版画家としての活動も精力的に行い、1984年には銅版画作品「花の景色 作品35」が第10回日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞の3席を受賞するなど、画家としても確かな評価を得ています。

文学の世界に足を踏み入れたのは、1987年のことです。第7回横溝正史賞大賞を受賞した『時のアラベスク』によって、小説家として華々しくデビューしました。この作品は、彼女の独特な感性と、のちに彼女の作品の大きな特徴となる耽美的な要素が色濃く表れています。

服部の作品世界は、幻想的で時に猟奇的な雰囲気を持ち、特に作家・批評家である澁澤龍彦の世界観から深い影響を受けています。彼の提唱した「ドラコニア」と呼ばれる領域、すなわち日常の裏側に潜む非日常や異世界への関心は、服部の多くの小説に通底しています。作品中には、澁澤龍彦をモデルにしたと思しき登場人物が登場することもあり、彼女が澁澤世界にいかに傾倒していたかを伺わせます。

推理小説の枠を超えた幻想的で耽美な作風は、読者や批評家から高い評価を受けました。1998年には『この闇と光』が直木賞候補となり、作家としての地位を確固たるものとしました。その他の主要な単行本には、『罪深き緑の夏』、『時のかたち』、『黒猫遁走曲』、『一八八八 切り裂きジャック』、『ハムレット狂詩曲』、『シメール』、『レオナルドのユダ』、『ラ・ロンド 恋愛小説』などがあります。これらの作品は、推理、幻想、恋愛といった様々な要素が織り交ぜられ、彼女ならではの独特な世界観を構築しています。

また、彼女は単行本以外にも、様々なアンソロジーに短編を提供し、その才能を発揮しました。『猫の手』、『恋する心』、『「怪奇クラブの殺人」』、『時のかたち』、『桜』、『へるめす』掲載のエッセイなど、多岐にわたる作品が知られています。特に、晩年に刊行された『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』には、これまでに発表された短編の多くが収録されており、彼女の短編作家としての優れた技量をうかがい知ることができます。

さらに、服部は他の作家の著作に対する解説や、様々な雑誌、書籍への寄稿も数多く行っており、その知的探求心と幅広い関心を示しています。日影丈吉やレイ・ブラッドベリ、皆川博子、アガサ・クリスティーといった国内外の作家作品への解説は、彼女の文学的視野の広さを物語っています。また、『王朝の香り 現代の源氏物語絵』に寄せたエッセイ「源氏物語の怪異と哀しみ」や、『ユリイカ』、『オール讀物』などに発表されたエッセイからは、文学以外の分野、例えば絵画や映画、更にはゲーム（『ドラゴンクエスト』についての言及もあります）への造詣の深さがうかがえます。

作家活動の傍ら、銅版画家としての活動も継続しており、その視点が作品に影響を与えている可能性も指摘されています。絵画と文学、二つの表現方法を追求することで、彼女独自の芸術世界を築き上げました。

2007年8月16日、服部まゆみは肺癌のため58歳で亡くなりました。その夭折が惜しまれますが、彼女が生み出した独創的な小説や銅版画は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。耽美と幻想、そして人間の内面を深く描いたその作品群は、日本のミステリー文学や幻想文学において、独自の光を放っています。

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