へるめす

『へるめす』の概要

『へるめす』は、1984年12月に創刊された岩波書店の季刊誌であり、文化や学問に関する広範な話題を扱う総合雑誌です。その編集同人には、著名な作家や思想家が名を連ねており、初代編集長は後に岩波書店社長となる大塚信一が務めました。創刊の背景には、1981年から1982年までに出版された「叢書文化の現在」の企画があり、創刊号からは磯崎新、大江健三郎、大岡信などの文化界の重鎮が寄稿していました。

季刊誌としてスタートし、1989年に入り第19号からは隔月刊に移行しましたが、1994年に第50号をもって編集同人制が終了し、1997年には第67号で幕を閉じました。

創刊の意図

『へるめす』の創刊に携わった編集同人は、林達夫の言葉を引用し、歴史家の役割をギリシャ神話の神ヘルメスに重ねて表現しました。彼らは、「知の地殻変動」の中で新たな文化を生み出し、人々をつなぐ使者としての役割を果たしたいと表明しました。更に、現代文化の複雑さを理解し、豊かな文化創造の可能性を探ることが創刊の基本的な意図であるとしています。

表紙とグラビア

創刊号から第18号までは、著名なイラストレーター黒田征太郎による鳥のイラストが表紙に使用され、特集として磯崎新の「ポスト・モダニズムの風景」が取り上げられました。この特集では、建築家やアーティストのイラストが加えられ、磯崎の見解が述べられるなど、視覚的にも楽しめる内容となっていました。

記事と誌面構成

創刊号の特集は、山口昌男の「ルルの神話学」や中村雄二郎の「場所・通底・遊行」などの論考が取り上げられ、大江健三郎や大岡信の創作も掲載されました。これ以降も、様々な分野にわたる多様な企画が進行し、「Decoding Culture」や「戦後日本文化の神話と脱神話」などの特集が組まれるなど、時代の様相を反映した内容が展開されました。

• - Decoding Culture では、河合隼雄によるセクシャリティと社会に関する対談や、井上ひさしによる異文化理解の難しさが議論されました。
• - 戦後日本文化の神話と脱神話 では、文学的な視点から戦後の経緯を探求しました。
• - 都市とトポスへの視点 では、都市社会のメカニズムを解明し、ユートピアの側面に迫りました。
• - フェミニズムの地平 では、性とジェンダーに関する重要なテーマが多角的に論じられました。

特徴的な連載・寄稿者

また、初期の号には中井久夫や前田愛、坂部恵といった著名な執筆者が参加しており、多方面からの視点が盛り込まれていました。第4号からは海外の著名人を招いた「Guest From Abroad」コーナーも始まり、国際的な視野が広まりました。

終焉と影響

『へるめす』は、文化的かつ学問的な対話を促す場として、多様な意見を集め、特徴的な文化評論を展開しました。その影響は、単なる雑誌の域を超え、現代日本の文化論や批評において重要な位置を果たしました。最終号を迎えた1997年までの約13年間、読者に多くの知見を提供し続けたこの雑誌の存在は、後の文化的な流れにも影響を与えたと言えます。

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