朝鮮放送協会
社団法人朝鮮放送協会（ちょうせんほうそうきょうかい）は、日本の統治下にあった朝鮮半島において、主にラジオ放送事業を担った法人組織です。その中核を担ったのは、京城（現在のソウル）に置かれた京城中央放送局で、「JODK」という呼出符号（コールサイン）で広く知られていました。
日本におけるラジオ放送が東京、大阪、名古屋で始まったのに続き、朝鮮でも放送への関心が高まりました。朝鮮総督府の逓信局は1924年から放送の研究に着手し、同年には京城で日本語による実験放送（J8AA）を開始しました。また、朝鮮日報社による朝鮮語での実験放送も行われ、日本人、朝鮮人の双方から本放送への期待が集まります。
こうした動きを経て、1926年2月には「京城放送局創立準備委員会」が設立され、同年11月に「社団法人京城放送局」として正式に認められました。呼出符号「JODK」は、日本本土以外では異例の付与であり、無線局の許認可権限を持っていた朝鮮総督府逓信局の判断によるものでした。1927年2月16日、京城放送局は波長345m（周波数870kc）、出力1kWで本放送を開始。当初は日本語と朝鮮語の番組を交互に放送する形式（交叉放送）で、比率は日本語5割、朝鮮語5割でした。
開局当初は、送信出力が小さく聴取状態が悪かったことや、月額2円という高額な聴取料が普及の妨げとなり、聴取契約数は伸び悩みました。これに対し、1927年7月には日本語番組の比率を6割に引き上げ、同年10月には聴取料を月1円に値下げするなどの対策が取られました。さらに、1929年3月には日本本土からの番組中継を増やし、日本語7割、朝鮮語3割の比率に変更しましたが、開局から4年経っても契約者数は約1万1千件に留まっていました。
経営を立て直すため、京城放送局は1931年2月に朝鮮語専門の第2放送の開始を計画します。朝鮮総督府や社団法人日本放送協会の支援を受け、1932年4月には組織を「社団法人朝鮮放送協会」に改組（京城放送局は京城中央放送局に改称）。そして1933年4月26日、第1放送（日本語）と完全に分離した朝鮮語による第2放送が開始されました。この言語別の放送は、日本人と朝鮮人の双方から好評を博し、同年末には聴取契約数が3万2千件に増加しましたが、その大半は日本人世帯でした。
当時のラジオ聴取には依然として月額1円（1938年4月には75銭に値下げ）の聴取料が必要であり、貧困層の多い朝鮮人家庭への普及は容易ではありませんでした。また、京城中央放送局一局からの放送では、朝鮮全土への電波到達が地形的に困難でした（1937年4月には第2放送が出力50kWに増力され、広い範囲で聴取可能になります）。しかし、ラジオは個人宅だけでなく、飲食店や集会所などにも設置され、多くの人々が共に聴取していました。このラジオ放送は、1920年代の朝鮮語新聞と共に、近代朝鮮語の形成に少なからぬ影響を与えたと言われています。
一方で、朝鮮語による放送が日本語の普及や皇民化政策を妨げるとの議論が絶えず、朝鮮語放送の廃止論がしばしば持ち上がりました。日中戦争の長期化から太平洋戦争へと戦局が進むにつれて、放送内容は戦時色が強まり、第2放送で人気だった歌謡番組も戦意高揚を目的としたものが中心となります。1942年4月には電波管制のため京城からの第2放送は一時休止されましたが、地方局に設備を増設した上で1943年11月に再開されました。
朝鮮放送協会は、京城中央放送局に加え、釜山、平壌、清津、咸興、裡里、大邱、光州、大田、元山、海州、新義州、春川、木浦、馬山、城津、清州、江陵といった主要都市に放送局を設置しました。これらの局も順次、第1放送（日本語主体）や第2放送（朝鮮語主体）を開始し、朝鮮半島全域にわたる放送網を構築しました。また、一部地域には補助放送所も設けられました。
1945年8月15日の日本の敗戦により、朝鮮半島は北緯38度線を境にアメリカ軍とソ連軍に占領されることとなります。南側では、京城中央放送局は一時日本軍によって警備され、日本語放送も続いていましたが、9月にアメリカ軍が進駐し、日本語放送は廃止されました。同年10月には日本人職員全員が解雇されますが、一時的に嘱託として日本語ニュースの放送が継続されました。その後、1948年6月にアメリカ軍政当局から放送事業が移管され、「大韓放送協会」と改称。これが現在の韓国放送公社（KBS）へと繋がっていきます。
一方、北側ではソ連軍の進駐に伴い社会主義体制への移行が進められました。1945年8月26日には、北緯38度線付近の放送専用線が遮断され、京城中央放送局からの放送は停止しました。約2ヶ月後の10月14日、平壌放送局が放送を再開。これが現在の朝鮮中央放送へと繋がっていきます。
社団法人朝鮮放送協会は、戦時下の統制や民族間の言語問題といった複雑な状況の中で放送事業を行い、終戦によってその歴史を閉じ、南北それぞれの放送組織の基礎となりました。その詳細な歴史は、『JODK消えたコールサイン』などの書籍にもまとめられています。
1945年8月当時の主な放送局:
京城中央放送局 (JODK)
釜山放送局 (JBAK)
平壌放送局 (JBBK)
清津放送局 (JBCK)
咸興放送局 (JBDK)
裡里放送局 (JBFK)
大邱放送局 (JBGK)
光州放送局 (JBHK)
大田放送局 (JBIK)
元山放送局 (JBJK)
海州放送局 (JBKK)
新義州放送局 (JBLK)
春川放送局 (JBMK)
木浦放送局 (JBNK)
馬山放送局 (JBOK)
城津放送局 (JBPK)
清州放送局 (JBQK)
江陵放送局 (JBRK)
(注: 上記は主要な局の一部であり、補助放送所や詳細な周波数、開設日は割愛している)
前身と設立の経緯
日本におけるラジオ放送が東京、大阪、名古屋で始まったのに続き、朝鮮でも放送への関心が高まりました。朝鮮総督府の逓信局は1924年から放送の研究に着手し、同年には京城で日本語による実験放送（J8AA）を開始しました。また、朝鮮日報社による朝鮮語での実験放送も行われ、日本人、朝鮮人の双方から本放送への期待が集まります。
こうした動きを経て、1926年2月には「京城放送局創立準備委員会」が設立され、同年11月に「社団法人京城放送局」として正式に認められました。呼出符号「JODK」は、日本本土以外では異例の付与であり、無線局の許認可権限を持っていた朝鮮総督府逓信局の判断によるものでした。1927年2月16日、京城放送局は波長345m（周波数870kc）、出力1kWで本放送を開始。当初は日本語と朝鮮語の番組を交互に放送する形式（交叉放送）で、比率は日本語5割、朝鮮語5割でした。
運営の課題と朝鮮語第2放送
開局当初は、送信出力が小さく聴取状態が悪かったことや、月額2円という高額な聴取料が普及の妨げとなり、聴取契約数は伸び悩みました。これに対し、1927年7月には日本語番組の比率を6割に引き上げ、同年10月には聴取料を月1円に値下げするなどの対策が取られました。さらに、1929年3月には日本本土からの番組中継を増やし、日本語7割、朝鮮語3割の比率に変更しましたが、開局から4年経っても契約者数は約1万1千件に留まっていました。
経営を立て直すため、京城放送局は1931年2月に朝鮮語専門の第2放送の開始を計画します。朝鮮総督府や社団法人日本放送協会の支援を受け、1932年4月には組織を「社団法人朝鮮放送協会」に改組（京城放送局は京城中央放送局に改称）。そして1933年4月26日、第1放送（日本語）と完全に分離した朝鮮語による第2放送が開始されました。この言語別の放送は、日本人と朝鮮人の双方から好評を博し、同年末には聴取契約数が3万2千件に増加しましたが、その大半は日本人世帯でした。
当時のラジオ聴取には依然として月額1円（1938年4月には75銭に値下げ）の聴取料が必要であり、貧困層の多い朝鮮人家庭への普及は容易ではありませんでした。また、京城中央放送局一局からの放送では、朝鮮全土への電波到達が地形的に困難でした（1937年4月には第2放送が出力50kWに増力され、広い範囲で聴取可能になります）。しかし、ラジオは個人宅だけでなく、飲食店や集会所などにも設置され、多くの人々が共に聴取していました。このラジオ放送は、1920年代の朝鮮語新聞と共に、近代朝鮮語の形成に少なからぬ影響を与えたと言われています。
一方で、朝鮮語による放送が日本語の普及や皇民化政策を妨げるとの議論が絶えず、朝鮮語放送の廃止論がしばしば持ち上がりました。日中戦争の長期化から太平洋戦争へと戦局が進むにつれて、放送内容は戦時色が強まり、第2放送で人気だった歌謡番組も戦意高揚を目的としたものが中心となります。1942年4月には電波管制のため京城からの第2放送は一時休止されましたが、地方局に設備を増設した上で1943年11月に再開されました。
放送網の拡大と終焉
朝鮮放送協会は、京城中央放送局に加え、釜山、平壌、清津、咸興、裡里、大邱、光州、大田、元山、海州、新義州、春川、木浦、馬山、城津、清州、江陵といった主要都市に放送局を設置しました。これらの局も順次、第1放送（日本語主体）や第2放送（朝鮮語主体）を開始し、朝鮮半島全域にわたる放送網を構築しました。また、一部地域には補助放送所も設けられました。
1945年8月15日の日本の敗戦により、朝鮮半島は北緯38度線を境にアメリカ軍とソ連軍に占領されることとなります。南側では、京城中央放送局は一時日本軍によって警備され、日本語放送も続いていましたが、9月にアメリカ軍が進駐し、日本語放送は廃止されました。同年10月には日本人職員全員が解雇されますが、一時的に嘱託として日本語ニュースの放送が継続されました。その後、1948年6月にアメリカ軍政当局から放送事業が移管され、「大韓放送協会」と改称。これが現在の韓国放送公社（KBS）へと繋がっていきます。
一方、北側ではソ連軍の進駐に伴い社会主義体制への移行が進められました。1945年8月26日には、北緯38度線付近の放送専用線が遮断され、京城中央放送局からの放送は停止しました。約2ヶ月後の10月14日、平壌放送局が放送を再開。これが現在の朝鮮中央放送へと繋がっていきます。
社団法人朝鮮放送協会は、戦時下の統制や民族間の言語問題といった複雑な状況の中で放送事業を行い、終戦によってその歴史を閉じ、南北それぞれの放送組織の基礎となりました。その詳細な歴史は、『JODK消えたコールサイン』などの書籍にもまとめられています。
1945年8月当時の主な放送局:
京城中央放送局 (JODK)
釜山放送局 (JBAK)
平壌放送局 (JBBK)
清津放送局 (JBCK)
咸興放送局 (JBDK)
裡里放送局 (JBFK)
大邱放送局 (JBGK)
光州放送局 (JBHK)
大田放送局 (JBIK)
元山放送局 (JBJK)
海州放送局 (JBKK)
新義州放送局 (JBLK)
春川放送局 (JBMK)
木浦放送局 (JBNK)
馬山放送局 (JBOK)
城津放送局 (JBPK)
清州放送局 (JBQK)
江陵放送局 (JBRK)
(注: 上記は主要な局の一部であり、補助放送所や詳細な周波数、開設日は割愛している)
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