朧大橋

朧大橋（おぼろおおはし）

福岡県八女市上陽町下横山に位置する、八女市道の橋であり、福岡県内でも最大級のアーチ[[橋]]です。この橋は、奥八女地域と久留米都市圏を繋ぐ重要な役割を担うことが期待され建設されました。

概要

朧大橋は、耳納連山の南側にある広川渓谷を東西に跨いでいます。東側は尾久保・木浦集落、西側は久留米方面への県道798号線と接続しています。この橋は、当時の上陽町の請願によって、福岡県の事業として建設されました。奥八女地域と久留米市との連携を強化することで、中山間地域の過疎化を抑制する狙いがありました。特に、朧大橋は奥八女地域の玄関口として、最先端の技術とランドマークとなるデザインで建設されました。

しかし、橋の前後の道路整備が遅れており、巨大なアーチ[[橋]]が山奥に突如として現れるという状況になっています。そのため、実際の需要に対して過剰な設計であるとして、税金の無駄遣いとの批判も受けています。

周辺道路

福岡県道798号北川内草野線: 橋に直接接続しており、北へ進むと耳納山を越えて久留米市草野町へ、南へ進むと広川や横山川沿いに上陽町北川内へ至ります。
福岡県道800号湯ノ原合川線: 県道798号と耳納大橋を介して接続しており、西へ進むと高良川沿いに久留米市街地へ、南へ進むと小椎尾川沿いに広川町水原へ至ります。
耳納スカイライン: 県道798号線から耳納平駐車場で接続し、西へ進むと耳納山地の尾根を伝って高良大社へ、東へ進むと鷹取山頂付近へ至ります。

沿革

背景

上陽町は、元々県道52号によって東西に隣接する星野村や八女市と繋がっており、これらの地域との繋がりが深かったのですが、北西に位置する久留米市へは、狭く曲がりくねった山道を通るか、大きく迂回する必要がありました。そのため、上陽町は久留米市との連携を強化し、町の活性化を図ろうとしました。

具体的には、以下の効果を期待していました。

緊急医療体制の確立: 久留米市の大規模な救急病院へのアクセスが向上し、医療サービスが安定化する。
通勤・通学時間の短縮: 久留米市への通勤圏となることで、人口の流出を防ぎ、新たな移住者の増加も見込める。
生鮮野菜などの流通経路の確保: 久留米市での農産物の取引量を増やすことで、町内経済の活性化を図る。

また、上陽町には多くの観光名所があり、久留米市との接続を強化することで、観光客の増加も期待していました。しかし、当時の福岡県道にはそのような計画がなく、町道として上陽町が自ら整備する必要がありました。しかし、財政規模の制約から、大規模な橋やトンネルの建設は困難でした。

計画

1990年（平成2年）、過疎地域活性化特別措置法の制定により、県が市町村道の整備事業を代行できるようになったため、上陽町は福岡県に道路整備を要望しました。その結果、久留米市街地から上陽町を直結する以下の道路が計画されました。

1. 福岡県道800号湯ノ原合川線: 久留米市高良内町杉谷～広川町小椎尾間の未完成区間の建設。
2. 町道杉谷線: 広川町小椎尾で県道800号から分岐し、耳納大橋を経て、上陽町下横山で県道798号と接続する。
3. 町道下横山東西線: 上陽町下横山で県道798号から分岐し、朧大橋と上陽町上横山を経由して、県道70号および県道804号に接続するバイパス道路。

この事業は、道路特定財源制度によって上陽町の費用負担はなかったとされています。

朧大橋の名称は、架橋地点の小字「朧」に由来しています。この小字は、発心城の戦いにおいて、落城時に逃げ込んだ落人たちが、燃え盛る城を下の谷間から見上げていた時に、空が朧月夜であったことに由来します。

建設

朧大橋の構造については、周辺住民や専門家の意見を基に、鉄筋コンクリート造のアーチ[[橋]]とすることが決定しました。また、東京大学の篠原修教授を始めとする専門家で構成された朧大橋検討委員会が設置され、デザインの検討が進められました。委員会には「自然と一体になった躍動感溢れるスマートで美しい橋」というテーマが提示され、周辺景観との調和を重視したデザインが求められました。その結果、中央から両端に向かって広がるアーチと逆V字型の支柱で構成されるデザインが採用されました。このデザインは、朧という地名から連想される「おぼろ月夜に跳ねるウサギ」をイメージしたものにもなりました。

橋の建設には、ピロン・メラン併用工法と情報化施工が採用され、効率的な部材利用と工期短縮が図られました。アーチリブ基部には吊り支保工を併用したピロン工法が、アーチクラウンにはメラン工法が採用されました。また、仮設構造物にはPC鋼材のみを使用し、センサーによる数値管理（情報化施工）によって、気温変化による伸縮の影響を最小限に抑えました。

橋の本体にかかった費用は、設計費が1億2051万円、建設費が38億3900万円でした。

開通後

2002年（平成14年）3月31日に開通式が行われました。橋の周辺には展望台やふるさとわらべ館などが整備され、地域振興の取り組みも行われました。朧大橋の開通によって、一部地域では久留米市への移動時間が短縮されましたが、同時に、税金の無駄遣いではないかという批判も起こりました。

実際には、橋の恩恵を受けられたのは、橋の東側にある3つの集落から久留米方面へ移動する場合に限られていました。上陽町の中心部から久留米方面へ行くには、必ずしも朧大橋を渡る必要はありませんでした。また、橋の近くにあった下横山小学校が閉校したため、通学路としての役割も果たすことができませんでした。

その後も、下横山東西線の建設事業は続けられましたが、2015年（平成27年）までに朧大橋東詰～木浦集落間の約2.6kmの区間が整備されたに留まり、その後の進展はありません。

2006年（平成18年）には、上陽町が八女市に編入合併され、下横山東西線は八女市道となりました。八女市は、上陽地区と久留米市の連携については、特に言及していません。

久留米市も、周辺地域との連携は強化しているものの、上陽町との連携については特に言及していません。2018年（平成30年）には、県道52号の合瀬耳納トンネルが開通し、上陽地区の東隣にある星野地区からうきは市や大分道へのアクセスが大幅に改善されました。

議論

開通当初から、朧大橋は「前後の道路整備が不十分である」「実際の需要に対して過剰な設備である」という点で、その必要性が疑問視されてきました。一部メディアでは「地元の建設業者を潤すための無駄な公共事業ではないか」との報道もなされました。また、当時の政治家である古賀誠氏の名前をとって「誠橋」と呼ばれることもありました。

2005年（平成17年）の八女市・上陽町合併協議会では、当時の上陽町長が「朧大橋の建設は福岡県からの提案であり、大きな政治力が働いた」と述べています。また、八女市議からは「『誠橋』と呼ばれるのは損であり、その必要性を周知しなければならない」という意見が出ました。

2008年（平成20年）には、当時の民主党の国会議員が、朧大橋を税金の無駄遣いの実例として国会で取り上げました。これに対し、国土交通大臣は「朧大橋は命の道である」と述べました。しかし、当時の朧大橋の交通量は、予測の10分の1程度に留まっていました。また、福岡県知事や旧上陽町長は、橋の必要性を訴え、「誠橋」という言葉はメディアが作り上げた概念であると反論しました。

その後も、別の民主党議員が朧大橋を視察し、その必要性を疑問視しました。また、別の国会議員からは「朧大橋よりも、路線バスが通る道路の改善を優先すべきだった」という意見が出されました。

年表

1990年（平成2年）：過疎地域活性化特別措置法が制定され、上陽町が福岡県に道路建設を請願。
1991年（平成3年）：町道杉谷線が着工。
1994年（平成6年）：朧大橋の建設検討が開始。
1995年（平成7年）：耳納大橋が完成し、朧大橋の設計検討委員会が発足。
1997年（平成9年）：朧大橋が着工。
2001年（平成13年）：県道800号の未成区間が開通。
2002年（平成14年）：朧大橋が開通、土木学会田中賞を受賞。
2004年（平成16年）：下横山東西線の第一期工事が完了。
2005年（平成17年）：八女市が都市計画マスタープランを策定。
2006年（平成18年）：上陽町が八女市に編入。
2008年（平成20年）：国会議員が朧大橋を視察、国会で取り上げられる。
2009年（平成21年）：野田国義が衆議院議員に当選。
2011年（平成23年）：下横山東西線の第二期工事（一部）が完了。
2015年（平成27年）：下横山東西線の第二期工事（残部）が完了。

現況

朧大橋は、計画開始から30年以上、開通からも20年以上が経過しましたが、道路の整備が進んだのは一部区間に留まっており、当初期待されていた役割を十分に果たしているとは言えません。しかし、上陽地域のランドマークとしての役割は果たしており、観光スポットやイベントの拠点として利用されています。

下横山東西線の未開通区間は、地形条件が悪く、災害対策も必要なため、事業化の目処は立っていません。また、県道800号の未改良区間についても、整備計画は発表されていません。

受賞歴

土木学会田中賞 作品部門 (2002年)
プレストレストコンクリート技術協会賞 作品部門 (2003年)
土木学会デザイン賞 優秀賞 (2004年)

脚注

出典
注釈

関連項目

道路特定財源制度

外部リンク

福岡県八女県土整備事務所
福岡県八女市ホームページ

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