木曽川堤（サクラ）

木曽川堤（サクラ）

木曽川堤（サクラ）は、愛知県西部、一宮市から江南市にかけての約7キロメートルにわたる区間に広がる、風光明媚な桜並木です。この桜並木は、その景観美と歴史的な価値が認められ、1927年（昭和2年）8月11日に国の名勝および天然記念物の両方に指定されるという、極めて稀な二重指定を受けています。

歴史と特徴

木曽川は愛知県と岐阜県の県境を流れ、かつては頻繁に氾濫を繰り返していました。このため、江戸時代には強固な堤防、通称「御囲堤（おかこいづつみ）」が築かれ、現在の桜並木がある場所はその一部にあたります。桜が初めて植えられたのは明治時代に入ってからのことで、具体的には1885年（明治18年）に植樹が始まりました。当初は約1800本もの桜が植えられ、その種類は主にエドヒガンやシダレザクラ、そしてわずかですがヤマザクラも含まれていました。

全国各地の著名な桜並木ではソメイヨシノが主流であることが多い中で、木曽川堤の桜はソメイヨシノが植えられていないという点が特徴として挙げられます。これは、明治期における桜並木のあり方を示す貴重な事例であり、天然記念物としての価値を高める要因の一つとなっています。

現状と課題

植樹から長い歳月が経過する中で、木曽川堤の桜は様々な試練に直面してきました。特に、昭和34年（1959年）の伊勢湾台風では強風により多くの木が倒れる甚大な被害を受けました。これに加えて、樹木の自然な枯死、管理のための伐採、そして堤防上に整備された県道の拡張工事なども影響し、一時は桜の本数が約400本まで激減しました。

しかし、失われた桜を補うべく、その後は計画的に新しい桜の苗木の植樹が進められています。現在（2025年時点）も、明治期に植えられた古木の一部は残存していますが、その分布には偏りがあります。一宮市の黒岩から北方町にかけての区間には比較的多くの古木が見られますが、江南市側では小杁（こいり）地区にわずかに残る程度となっており、全体としては近年植樹された比較的若い桜が大部分を占める状況です。古木の保全と新たな桜の育成が、今後の課題となっています。

地域との関わり

この美しい桜並木は、地元の人々にとって特別な存在です。地域にゆかりのあるエピソードとして、一宮市（旧葉栗郡木曽川町）出身の声優、丹下桜さんの芸名はこの木曽川堤の桜に由来しているとされています。桜の季節には多くの花見客で賑わい、地域のにぎわい創出にも貢献しています。

交通アクセス

公共交通機関を利用する場合、名古屋鉄道の名古屋本線または尾西線の名鉄一宮駅から名鉄バスに乗車し、「光明寺」停留所で下車するのが便利です。バス停からは徒歩で約5分ほどで桜並木にたどり着けます。

また、名鉄バスの一宮川島線は「大野」停留所から「河田黒岩」停留所の間、一宮宮田線は「河田黒岩」停留所から「本郷口」停留所の間で、御囲堤上の県道を経由します。この区間のうち、「大野」停留所から「河田黒岩」停留所の間、および「河田黒岩」停留所から「宮田口」停留所の間では、バスの車窓から木曽川堤の桜を眺めることができるため、移動中も桜を楽しめます。

木曽川堤の桜は、歴史的背景、植栽の特徴、そして天然記念物・名勝という高い評価を持つ、愛知県を代表する桜の名所の一つとして、多くの人々に親しまれています。

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