シダレザクラ

シダレザクラ：優美な枝垂れが織りなす桜の世界

シダレザクラは、その名の通り枝が美しく垂れ下がる桜の総称として知られています。学名 Cerasus itosakura ‘Pendula’ を持ち、バラ科サクラ属に分類されますが、その実態は多様性に富んでいます。一口にシダレザクラといっても、狭義と広義の定義があり、それぞれに様々な種類が含まれています。

広義のシダレザクラ：多様な枝垂れ桜の仲間たち

広義のシダレザクラは、枝が垂れる桜の総称であり、その中には様々な種類が含まれます。代表的なものとして、エドヒガン系の栽培品種であるシダレザクラ(Cerasus itosakura ‘Pendula’)、ベニシダレ(Cerasus itosakura ‘Pendula Rosea’)、ヤエベニシダレ(Cerasus itosakura ‘Plena-rosea’)などが挙げられます。

これら以外にも、エドヒガンとマメザクラの交雑種であるウジョウシダレ、エドヒガン系と他の種との雑種と考えられるカミヤマシダレザクラ、オオヤマザクラやカスミザクラの変種であるシダレオオヤマザクラ、キリフリザクラなど、多様な系統が存在します。さらに、ヤマザクラやオオシマザクラを起源とする栽培品種であるサトザクラの一種、シダレヤマザクラ（センダイシダレ）なども含まれます。

なぜ枝が垂れるのか？その原因は、植物ホルモンのジベレリンの不足によるものだと考えられています。ジベレリン不足により枝の上側の組織が硬く形成されず、枝の重さに耐えられなくなるため、枝が垂れ下がるのです。この枝垂れ性は遺伝的に潜性であるため、シダレザクラの子孫であっても、枝垂れない個体が生まれる場合があります。

狭義のシダレザクラ：エドヒガン系の代表品種

一方、狭義のシダレザクラは、特定のエドヒガン系統の枝垂れ性栽培品種を指します。樹高は8メートル以上に達する高木で、花は一重咲きの小輪、淡紅色の花を咲かせます。東京では3月中旬頃が見頃です。

狭義のシダレザクラは、複数のクローンが存在することが知られています。これは、接ぎ木や挿し木による増殖、さらには交雑種からの増殖を経た結果、形態が似通った個体が、別々の品種として区別されずに、一つのシダレザクラとして認識されてきたためだと考えられます。

平安時代の文献には「しだり櫻」や「糸櫻」といった記述があり、これらは狭義のシダレザクラの祖先であったと考えられています。興味深いことに、狭義のシダレザクラは野生での自生が確認されていません。しかし、日本各地に古木が多く存在することから、平安時代には既に種子による増殖と栽培化が行われ、全国に広まったと推測されています。

シダレザクラの多様性と歴史

このように、シダレザクラは、その定義、種類、そして歴史において複雑で奥深い世界を見せてくれます。古くから人々に愛され、日本の文化に深く根付いているシダレザクラは、その優雅な姿だけでなく、その遺伝的背景や歴史的経緯を知ることで、より一層魅力的な存在となるでしょう。 今後の研究により、さらに詳細な分類や歴史が明らかになることが期待されます。

参考文献

勝木俊雄『桜』岩波書店〈岩波新書〉、2015年
勝木俊雄「サクラの分類と形態による同定」『樹木医学研究』第21巻第2号、2017年
* 森林総合研究所多摩森林科学園 編『桜の新しい系統保全 形質・遺伝子・病害研究に基づく取組』森林総合研究所多摩森林科学園、2013年

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