木村三郎

木村三郎（きむら さぶろう）は、1907年（明治40年）に愛知県岡崎市で生を受け、1996年（平成8年）に90歳で生涯を閉じた、日本の近代史において重要な役割を果たした人物です。彼は、内務省の官僚として国土計画や都市計画といった行政分野で活躍する一方、造園家としての専門性も持ち合わせ、さらには研究者、教育者としても多大な功績を残しました。

学問の道を志した木村は、旧制第八高等学校を経て東京帝国大学農学部に進み、農学科で学びました。1931年（昭和6年）に大学を卒業後、そのまま大学の副手として研究の道を歩み始めますが、1935年（昭和10年）に退職し、新たなキャリアへと向かいます。1939年（昭和14年）には内務技師となり、防空研究所に籍を置きました。

同年、木村は旧満洲国へ渡り、交通部都邑計画司（都市計画局に相当）の技佐となります。その後、建設司へと移り、技正・都邑計画科長として、満洲国の主要都市における計画策定や開発プロジェクトに深く関与しました。この満洲での実務経験は、彼のその後のキャリア、特に都市計画分野における識見を養う上で貴重な財産となりました。

終戦後、日本に帰国した木村は、再び内務省国土局計画課の内務技官として、戦後の国土復興や計画策定に携わります。その後、1951年（昭和26年）には建設省総務局の土木専門官に就任。高度経済成長期を迎えようとする日本の国土整備において重要な役割を担いました。1956年（昭和31年）には総理府に設置された首都圏整備委員会の調整官として、日本の政治・経済の中心である首都圏の将来計画策定に尽力しました。また、1957年（昭和32年）には国土総合建設株式会社の取締役に就任するなど、実業界にもその活動範囲を広げました。

行政の第一線で活躍する傍ら、木村は教育分野にも情熱を注ぎました。1953年（昭和28年）から1967年（昭和42年）までの長きにわたり、母校である東京大学農学部で非常勤講師を務め、後進の指導にあたりました。さらに、千葉大学園芸学部や東京農業大学旧農学部の造園学科でも教鞭を執り、造園学や都市計画分野の専門家育成に貢献しました。国土開発調査会の常任幹事や財団法人国土計画協会の理事長といった要職を歴任し、日本の国土計画・都市計画に関する調査研究や普及啓発活動においても指導的な役割を果たしました。

特に晩年は、日本の伝統文化である日本庭園の研究に力を注ぎ、その成果を多くの著述として世に送り出しました。実務家、教育者としての経験に裏打ちされた彼の研究は、この分野に新たな視点をもたらしました。

その長年の功績に対し、木村三郎は数々の栄誉に輝きました。1969年（昭和44年）には、地方及び国土計画に関する一連の研究が評価され、日本造園学会賞を受賞。1972年（昭和47年）には第2回日本公園緑地協会北村賞、そして1993年（平成5年）には日本造園学会の上原敬二賞を受賞するなど、造園学界および都市計画分野におけるその貢献は高く評価されています。

木村三郎は、官僚として国の政策立案に関わり、造園家として景観創造に携わり、さらに教育者・研究者として学術の発展と後進育成に尽力した、多面的な才能を持つ人物でした。彼の生涯は、日本の近代における国土と都市の整備、そして造園学の発展の歩みと重なるものであり、その残した足跡は今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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