木村九蔵

木村九蔵

木村 九蔵（きむら くぞう、弘化2年10月10日（1845年11月9日） - 1898年（明治31年）1月29日）は、明治時代に現在の埼玉県を中心に活躍した養蚕家です。養蚕技術の革新に取り組み、「一派温暖育」と呼ばれる独自の飼育法を確立しました。また、養蚕技術の普及と産業の発展を目指し、競進社や日本蚕種貯蔵庫を設立。埼玉県立児玉白楊高等学校の校祖としても名を残しています。有名な養蚕家で高山社を創設した高山長五郎は、九蔵の実兄にあたります。

生い立ちと養蚕への歩み

弘化2年（1845年）、上野国（現在の群馬県）高山村の豪農、高山寅蔵の五男として生まれました。幼少期に父の隠居先で養蚕を試みたところ成功し、これが養蚕への関心を深めるきっかけとなりました。実家に戻り兄の長五郎と事業化を図るも、蚕病により失敗。この経験から飼育環境の重要性を痛感し、蚕室への空気循環と加温を工夫することで再び成功を収めました。その後、養家である木村家へ入婿となり、木村志満子と結婚。家を再興し、神流川沿いの土地を開墾して新たな拠点を築きました。

「一派温暖育」の確立と普及

明治初年、自ら育てた繭の輸出を試みますが、品質を厳しく評されたことを機に、さらなる技術改良に励みます。こうして編み出されたのが「一派温暖育」です。これは、火力を用いて蚕室の温度や湿度、空気の流れを厳密に管理する画期的な手法でした。九蔵はこの技術を甥らと共に広めようとしましたが、伝統的な自然飼育に慣れた農民からは「熬（あぶ）り飼い」と揶揄されたり、魔術と誤解されたりするなど、当初は強い反発や困難に直面しました。しかし、養蚕が副業から専業へと移行し、集約的な労働が導入されるにつれて、その合理的かつ科学的な手法が徐々に理解され、受け入れられていきました。

競進社の設立と近代化への貢献

養蚕技術の改良普及を目指し、1877年（明治10年）には養蚕改良競進組を結成し、全国に教授員を派遣して指導にあたりました。また、蚕種改良の重要性を認識し、新たな蚕種「白玉新撰」を開発しました。経済状況が厳しい時代背景の中、1884年（明治17年）には競進組を競進社に改組。自宅に本社、児玉町に出張事務所と養蚕伝習所を設け、実践的な技術教育と養蚕業の振興に力を注ぎました。

1889年（明治22年）には、農商務省の依頼でヨーロッパへ渡り、パリ万博や現地の製糸業を視察しました。イタリアでは先進的な蚕種保護法を学ぶなど、多くの知見を得て帰国します。この経験を活かし、1892年（明治25年）には本庄町に日本蚕種貯蔵庫を建設し、蚕種の安全な保存体制を確立。さらに、1894年（明治27年）にはイタリアの蚕室を参考に、理想的な飼育環境を示す競進社模範蚕室を建設するなど、日本の養蚕業の近代化に多大な貢献を果たしました。

晩年と功績

晩年は病に伏すこともありましたが、1897年（明治30年）には、より学術に基づいた養蚕教育を目指し、蚕業講究所を開校するなど、最後まで情熱を燃やしました。しかし、病状が悪化し、翌1898年（明治31年）1月29日に54歳でその生涯を終えました。辞世の句には、養蚕の道に尽くす決意が込められています。

九蔵の功績は高く評価され、没後も地元を中心に様々な形で顕彰されています。頌徳碑の建立や、「さいたま郷土かるた」への選定、講究所跡地の「産業教育発祥之地」碑、模範蚕室敷地内の胸像などは、彼の偉業を今に伝えています。著書に『木村九蔵君演説筆記』などがあり、緑綬褒章を受け、没後には従五位が贈られました。彼の技術革新と教育普及は、日本の近代養蚕業の発展に不可欠な貢献を果たしました。

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