木村定三

木村定三：実業家と美術コレクターの生涯

1913年、愛知県名古屋市に生まれた木村定三は、大地主であった父の影響を受け、裕福な環境で育ちました。旧制中学校、第八高等学校を経て東京帝国大学法学部を卒業するなど、優秀な学業成績を収めています。卒業後は官僚への道ではなく、家業に従事することを選びました。

兄の死去や父の死を経験した後、木村定三は家業を継ぎ、1966年には大名古屋建物株式会社の社長に就任するなど、実業家として成功を収めました。しかし、彼の名を不朽のものとしたのは、美術コレクターとしての活動です。

熊谷守一との出会い：情熱の始まり

1938年、丸善名古屋支店での展覧会で熊谷守一の作品と出会った木村定三は、その芸術に強い感銘を受けました。この出会いをきっかけに、熊谷守一の作品収集が始まり、その後39年に渡る交流が続くことになります。木村定三は熊谷守一の才能を高く評価し、熱心に作品を購入し続け、展覧会の開催などを通じて熊谷守一の活動を積極的に支援しました。熊谷守一にとって、木村定三は最大の理解者であり、パトロンであったと言えるでしょう。

多岐にわたる収集活動：幅広い視点

熊谷守一の作品収集にとどまらず、木村定三は池大雅、与謝蕪村、浦上玉堂など、日本の巨匠たちの作品を幅広く収集しました。収集対象は日本画にとどまらず、洋画、工芸品、考古資料など多岐に渡り、その深い造詣の深さがうかがえます。彼は単に作品を収集するだけでなく、作品に込められた精神性、厳粛さ、そして喜びを深く理解し、それらを重視して収集活動を行っていました。ピカソや熊谷守一を高く評価するなど、彼の美的感覚は時代を超えた普遍性を持っています。

愛知県美術館への寄贈：未来への遺産

木村定三は晩年、所蔵していた数々の美術品を愛知県美術館に寄贈しました。その中には重要文化財に指定されている与謝蕪村『富嶽列松図』や浦上玉堂『山紅於染図』なども含まれており、その規模と質において、他に類を見ないコレクションとなっています。現在、愛知県美術館には木村定三コレクション室が設けられ、3309点にも及ぶ作品群が一般公開されています。

木村定三コレクションの特徴

木村定三コレクションの特徴は、その多様性にあります。書画、洋画、工芸品、考古資料など、様々な分野の作品が網羅されており、収集家の幅広い視野と深い知識を示しています。特に熊谷守一の作品は214点に及び、その充実ぶりは他に類を見ません。ただし、熊谷守一の人気が高まった時期の作品が少ないという、興味深い特徴も持っています。

まとめ

木村定三は、実業家としての成功に加え、熱心な美術収集家として、日本の美術史に大きな足跡を残しました。彼の情熱と深い審美眼によって集められたコレクションは、未来の世代へと受け継がれる貴重な遺産であり、日本美術の理解を深める上で重要な役割を果たし続けています。愛知県美術館における木村定三コレクションは、日本の美術史研究においても貴重な資料として活用され、今後も多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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