本庄事件 (1923年)

本庄事件

本庄事件とは、1923年（大正12年）9月4日に、関東大震災後の混乱の中で、埼玉県児玉郡本庄町（現在の本庄市）の本庄警察署で発生した、暴動と朝鮮人殺害事件のことです。

事件の経過

関東大震災発生後、本庄駅には東京方面からの避難民が多数押し寄せ、町民は炊き出しなどの救援活動を行っていました。9月3日、避難民の間で「朝鮮人が放火や井戸に毒を盛った」というデマが広がり、県からの通達により、児玉郡役場から各町役場へ警告が伝達され、各地で自警団が組織されました。同日夕方には、20名程度の朝鮮人が本庄警察署に収容されていました。

9月4日正午には、籠原から自動車で輸送されてきた朝鮮人の集団が到着し、その後も県南から朝鮮人を輸送する自動車が複数台到着しました。午後1時過ぎ、2台のトラックに15人の朝鮮人が分乗し、群馬県へ向けて出発しましたが、県境の神流川河原で群馬県側の自警団に引き継ぎを拒否されます。同行の警察官は群馬県警藤岡警察署に引き継ぎを依頼するも拒否され、朝鮮人らは河原に取り残されてしまいます。その後、降ろされた朝鮮人たちは賀美村の自警団から暴行を受け、賀美村役場に収容されました。

その後も、本庄署では数回にわたり、数台のトラックに朝鮮人を分乗させ、群馬県方面への移送を試みました。夜になり、朝鮮人を移送するトラック3台が賀美村に差し掛かると、自警団が投石などで通行を妨害し、先に賀美村役場に収容されていた朝鮮人も同乗させ、本庄署へ引き返しました。トラックが神保原村を通過する際、群衆がトラックを取り囲み、朝鮮人を棍棒で殴打するなどして殺傷する事件が発生しました（神保原事件）。

移送を中止したトラックが本庄署に戻ると、署の周辺に集まっていた群衆が暴徒化し、朝鮮人や警察官に襲いかかりました。暴徒化した群衆は署内に乱入し、匿われていた朝鮮人を殺傷する事態にまで発展しました。

翌5日にかけて、遺体は署内から荷馬車などで運び出され、一部は町内の火葬場に運ばれました。しかし、処理しきれなかったため、付近の野原に穴を掘って石油をかけ焼却され、遺骨は共同墓地に埋葬されました。

9月6日には、300人から3000人ともいわれる暴徒が本庄署を取り囲み、「署長を殺せ」などと叫び、警察署を包囲しました。署長は逃亡し、乱入した群衆は署内を破壊した上で、炭俵や石油を運び込むなど、焼き討ちをしようとしました。署長は着任以来、遊郭への取り締まりを厳しく行うなど、町内の有力者から恨まれており、最初に連行された朝鮮人をすぐに釈放したことへの批判が、震災の混乱に乗じた暴徒化を招いたと考えられています。この事態を重く見た大沢村村長で在郷軍人会児玉連合会会長の岡本保次らは、本庄駅に停車中の列車に第9師団歩兵第7連隊が乗車していることを知り、指揮官に出動を要請。兵士が派遣され、事態は鎮静化しました。

本庄署では応援を要請し、周辺の警察署から警察官が到着したほか、戒厳令により県内に展開していた陸軍部隊が本庄町内に続々と入りました。9月7日深夜には第2師団歩兵第32連隊、同日早朝には第14師団歩兵第15連隊が到着し、町内の治安回復を図りました。その後も、憲兵隊などが派遣され、10月26日まで軍隊の駐屯が続きました。

被害者数

本庄警察署で殺害された人数については、殺害に関わった当事者の証言では85名、東京日日新聞では79名、浦和地方裁判所の検事正は30余名と発表しています。当時の本庄町会議員の証言では、署内で87名、町内で1名の計88名、元本庄署巡査の証言では、署内で86名、町内で15〜16名としています。また、戦後に建立された慰霊碑には86名と記載されており、関東大震災六十周年朝鮮人犠牲者調査追悼事業実行委員会の調査では88名に加えて、不確定な14名程度となっています。

検挙と裁判

9月22日、軍隊の応援を得て、県北部での騒擾事件の犯人が一斉に検挙されました。本庄事件の検挙者は33名で、農業、露天商、鳶職、ペンキ職人、車夫、小間物商など、様々な職業の人々がいました。周辺の熊谷町では35名、神保原村で19名、寄居町で13名、妻沼町で14名が検挙されています。

10月22日から、一連の事件の裁判が浦和地方裁判所で始まり、11月26日に判決が下されました。重い者で懲役2年、証拠不十分で無罪となった者もいました。

本庄事件の裁判記録による殺傷行為の部分では、「棍棒ヲ以テ頭部ヲ打撃シ殺害シタルモノ、足蹴ヲ加ヘテ殺害シタルモノ」と記録されています。

慰霊など

1924年（大正13年）、町内の長峰共同墓地に『鮮人之碑』と題された犠牲者の慰霊碑が建てられました。これは、事件直前に警察官と共に群衆の鎮静化に努めた群馬新聞本庄支局長であった馬場安吉が、事件後に埼玉県から受けた表彰金を基に、協力を呼びかけ建立されたものでした。

しかし、1959年（昭和34年）には在日朝鮮人から「鮮人」は差別的な表現ではないかとの声が上がり、本庄市の協力を得て、『関東震災朝鮮人犠牲者慰霊碑』が新たに建立されました。毎年9月1日に慰霊法要が行われています。

題材とした作品

小説

千田夏光『沈黙の風』（1987）

脚注

参考文献

『かくされていた歴史』（関東大震災六十周年朝鮮人犠牲者調査追悼事業実行委員会編、昭和62年）
『本庄市史（通史編III）』（本庄市、平成7年）
『新編埼玉県史通史編6』（埼玉県、平成元年）
『ビジュアルヒストリー本庄歴史缶』（本庄市教育委員会、平成9年）