本蘭明朝

本蘭明朝体とは

本蘭明朝体（ほんらんみんちょう）は、写研が1975年にリリースした電算写植機用の明朝体フォントです。この書体は、橋本和夫によってデザインされた仮名を特徴としており、写研の全自動写植機「SAPTON」シリーズ向けに開発されました。

歴史と背景

写研の本蘭明朝体は、「本蘭細明朝体」とも呼ばれる初期の明朝体に基づいており、その後、7つのウエイトに拡張されたファミリー形態で展開されています。写植技術は長い間、活字組版に比べて効率が劣るとされ、主に端物（短編の印刷物）用に使用されていましたが、1960年代末にコンピュータを駆使した電算写植システムが登場しました。この流れを受けて、1970年代には写植機が活字の代替として本文組みに使われるようになりました。

特に写研の「SAPTON」システムでは、文字円盤を高速で回転させる印字技術が採用され、具体的には毎分300字の印字速度を誇るものでした。しかし、このシステムの構造上、横線がかすれやすいという問題が存在しました。これは、本蘭明朝体の開発において重要な課題であり、書体そのものに手を加えることが求められました。

書体の特徴

これまで用いられていた石井明朝体は、機能面やデザイン面で劣っているとされ、特に横組みや和欧混植においては、ラインが整わないという欠点を抱えていました。この問題を解決するために、本蘭細明朝体は書籍や文庫本の本文用として設計され、横線を太くし、懐を広げるなど、活字の力強さを持ったデザインに改善されました。

また、横線を太くすることで明るさや視認性が向上しましたが、文字円盤の露光特性により、一部の交差部分に黒みがたまる問題が顕在化しました。これに対処するために、字形に小さな切り込み（隅取り）を加える新しい文字デザインの技法が導入されたことも本書体の特筆すべき点です。この隅取りにより、交差部分の黒みが目立つのを防ぎましたが、その後、デジタル化の過程でこの処理は埋められてしまいました。

ファミリー展開

本蘭明朝体は、社名が持つ独自の命名ポリシーを反映しており、「本」は本文組用、「蘭」は社長の石井裕子が好んだ植物の名前に由来しています。このフォントは、鈴木勉を中心にファミリー展開が進められ、1985年には「本蘭細明朝体」が「本蘭明朝L」に改名され、さらにHまでの7つのウエイトが発表されることで、広く利用されるようになりました。

現在の状況

手動写植機用の文字盤も市場に登場しましたが、2023年時点ではDTP向けのデジタルフォントとしての製品化は行われていません。しかし、2025年4月にはモリサワと写研によるOpenTypeフォント開発が予定されており、新たな展開が期待されています。

まとめ

本蘭明朝体は、写研が提供するデジタルフォントとして、長い歴史とともに進化してきた書体です。その独自のデザインと技術的な工夫によって、書籍印刷など多くの場面で需要が高まっています。

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