電算写植

電算写植とは

電算写植（でんさんしゃしょく）は、コンピュータを用いて手動写植による組版作業を自動化したシステムです。印刷・出版業界では「電算」と言えば、この電算写植を指すことが一般的でした。本記事では、日本における電算写植の発展とDTPへの移行について解説します。

電算写植の登場

1960年代、活版印刷や手動写植の課題を解決するシステムとして電算写植が登場しました。初期のシステムは、写研が開発したSAPTONシステムであり、大手新聞社から導入が進みました。このシステムは、漢字テレタイプ（漢テレ）の技術を応用し、複雑なキーボード操作で文字を入力する方式を採用していました。

電算写植の特徴

電算写植機は、活字の文選工と同等の熟練したオペレーターを必要としました。編集組版ソフトウェアも、プログラミング言語のようなコマンド入力で行うため、専門知識が求められました。また、印刷するまで出力結果が確認できないという制約もありました。写研のシステムは、フォント使用料が従量制であったため、コスト面での負担も大きかったのです。

DTPの登場と電算写植の衰退

1989年にDTP（デスクトップパブリッシング）が登場すると、電算写植は徐々に衰退していきます。DTPは、WYSIWYG（画面表示と印刷結果が同じ）を実現し、モリサワのフォントが買い切りで使用できるなど、コストと利便性で優れていました。当初はDTPの品質が電算写植に劣るとされていましたが、技術の進歩とともにDTPが主流となっていきました。

電算写植の類似システム

電算写植機以外にも、電子制御式手動写植機や電子組版システムなど、様々な印刷システムが存在しました。これらのシステムは、高機能化するにつれて電算写植機と類似したシステムを用いるようになり、その境界線は曖昧になっていきました。

電算写植の歴史

電算写植の歴史は、写研のSAPTONシステムの歴史と深く関わっています。SAPTONシステムは、日本の小規模印刷において標準的なシステムとして広く普及しました。

漢字テレタイプ（漢テレ）

電算写植の前身として、漢字テレタイプ（漢テレ）と呼ばれるシステムが存在しました。これは、漢字仮名交じり文を電信で遠隔通信するためのシステムで、初期の電算写植システムにも技術が応用されました。

アナログ写植機（第2世代電算写植機）

写研のSAPTONシステムは、日本初の電算写植機でした。この時期の電算写植機は、文字盤が歯車で物理的に動作するアナログ方式であり、後のデジタルフォントを利用した方式と区別されます。

CRT写植機（第3世代電算写植機）

1970年代後半には、CRT（ブラウン管）に文字を表示して写植するCRT写植機が登場しました。これにより、印字速度が向上し、デジタルフォントの利用が可能になりました。

レーザ写植機（第4世代電算写植機）

1970年代後半にはレーザーを用いて写植を行うレーザー写植機が登場し、文字と画像をまとめて出力することが可能になりました。また、レーザー写植機の登場に合わせて、アウトラインフォントの開発も進められました。

DTPへの移行

モリサワは、DTPの登場に合わせ、PostScriptフォントの開発に注力しました。1989年には、日本初のPostScript書体「リュウミンL-KL」と「中ゴシックBBB」がリリースされ、DTP元年を迎えました。写研もDTPに対抗するシステムを開発しましたが、コスト面でDTPに及ばず、徐々にDTPへと移行していきました。

2000年代以降

2000年代に入ると、DTPソフトウェアの機能が向上し、大規模出版を含むほとんどの出版がDTPベースのシステムに置き換えられました。写研はDTPへの対応をほとんど行わず、2018年には社長が死去し、工場が解体されるなど、解体が進んでいます。しかし、2021年にはモリサワと共同で、写研の書体をOpenTypeフォント化することが発表されました。

電算写植の利点と課題

電算写植は、手動写植に比べて文字入力と組版の分業化、修正の容易さ、複雑なデザインの実現などの利点がありました。しかし、DTPに比べてコストが高く、専門知識が必要とされるなどの課題もありました。DTPの普及により、電算写植は徐々に姿を消していきました。

Computer Typesetting System（CTS）

写植機メーカーが開発した電算写植機とは別に、大手印刷会社や新聞社が自社向けに開発した専用の電算写植システムも存在しました。これは「Computer Typesetting System」（CTS）と呼ばれ、1960年代から2000年代にかけて使用されました。

まとめ

電算写植は、日本の印刷・出版業界において大きな役割を果たした技術でした。DTPの登場により衰退しましたが、その技術はDTPへと引き継がれ、現在の出版業界を支えています。

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