李俊

李俊（り しゅん）

中国の四大奇書の一つである古典小説『水滸伝』に登場する主要人物の一人です。梁山泊において百八星が集結した際には第二十六位に位置し、天寿星の生まれ変わりとされます。その渾名は「混江龍（こんこうりゅう）」と呼ばれ、長江を自在にかき回す龍のような、水上での恐るべき実力を示しています。堂々とした長身で、立派な風采を持つ男として描かれています。

李俊の周囲には、子分格として童威（どうい）、童猛（どうもう）、李立（りりつ）が控えており、また縄張りを接する張横（ちょうおう）、張順（ちょうじゅん）兄弟や、穆弘（ぼくこう）、穆春（ぼくしゅん）兄弟とは深い兄弟分としての関係を築いていました。自身は「霜鋒（そうほう）」という名剣を帯びています。特に水泳の腕前は群を抜いており、その能力を活かした戦法を得意とします。敵の船底に潜り込んで鑿（のみ）で穴を開け、浸水させて行動不能に陥らせる戦術は、水上戦において多大な効果を発揮しました。

単に武勇に優れるだけでなく、優れた知略と人望も持ち合わせていました。そのため、梁山泊に加わった後は、組織の中核を担う水軍の総帥に任命されます。百八星の中での席次は必ずしも最上位ではありませんでしたが、水辺を拠点とする梁山泊にとって、戦闘や物資輸送の要となる水軍は極めて重要でした。水軍を率いる李俊は、侠客としての威厳も相まって、組織内においてある種の独立した、あるいは治外法権的な影響力を持っていたとされています。

多くの好漢が首領である宋江に強い忠誠心を示す中で、李俊は宋江の名声や人徳を尊重しつつも、彼を常に冷静かつ客観的な視点から見つめていた点が特徴的です。水軍を構成する面々には、官の腐敗した体制に反発して闇稼業に手を染めてきた根っからのアウトローが多く、彼らは宋江らの朝廷への帰順方針にしばしば強い反感を抱きました。そして物語の終盤、李俊たちは梁山泊と袂を分かち、中原では実現できなかった自由な生き方を求め、遥かな南海へと旅立ち新たな王国を築いたと描かれています。

生涯

李俊は廬州（ろしゅう）で生まれた後、江州（こうしゅう）の掲陽嶺（けいようれい）へと流れ着き、そこで童威、童猛、李立らと共に船頭を生業とするようになりました。しかし、その裏では、官による花石綱（かせきこう）の費用を捻出するための塩の不当な値上げに抵抗し、仲間たちと協力して塩の密売を行っていた、というアウトローとしての顔を持っていました。

ある時、天下に名高い義士として知られる宋江が、義侠心から罪を犯し江州へ流されてくることを聞きます。李俊は彼を出迎えようと待ち構えていましたが、子分の李立が宋江一行を知らずに痺れ薬で昏倒させてしまうという騒ぎが起こります。李俊は慌てて宋江たちを介抱させ、事情を説明して丁重にもてなしました。さらに数日後、宋江たちが自身の縄張りと隣接する穆（ぼく）兄弟や張横との間でトラブルを起こしている場面に偶然遭遇し、その仲裁に入ります。

しばらくして、江州で労役に就いていた宋江が無実の罪を着せられ、牢役人の戴宗（たいそう）と共に処刑されそうになっているという知らせが入ります。これを聞いた李俊たちは、穆兄弟、張兄弟と共に、縄張り一帯の船乗りたちを動員して二人を救出するため長江を下りました。江州に到着すると、既に晁蓋（ちょうがい）を始めとする梁山泊勢が二人を救出しており、官軍に追われている状況でした。李俊はすかさず全員を自らの船に乗せて退避させます。その後、穆弘の屋敷に逗留し、二人に罪を着せた黄文炳（こうぶんへい）に制裁を加えた後、そのまま梁山泊へと合流しました。

梁山泊へ入った後は、阮（げん）三兄弟らと共に水軍を組織し、その中心的な役割を担います。物資の調達や輸送、遠征軍の移動などに尽力しました。呼延灼（こえんしゃく）率いる官軍が梁山泊を攻めた際には、敵将・凌振（りょうしん）の火砲攻撃によって打撃を受けるも、李俊は得意の水上戦で反撃。水中から夜襲をかけ、見事に凌振を捕らえるという手柄を立てています。その後の会戦でも水軍を率いて奮闘しました。百八星集結後は、改めて水軍の総帥に任命され、その指揮を執ることになります。

朝廷の腐敗に強い反感を持って梁山泊入りした李俊たち水軍衆でしたが、その後、梁山泊の首脳陣の方針が急速に朝廷への帰順へと傾いていくことに強く反発します。朝廷からの使者が梁山泊へ来た際には面と向かって罵倒し、最初の交渉が決裂すると、水軍を率いて官軍を散々に打ち破りました。この際にも、捕らえた官軍の将軍を独断で処分するなど、中央の方針に逆らう行動を取っています。しかし、最終的に梁山泊は朝廷への帰順を受け入れ、李俊たちも不承不承ながらこれに従うこととなりました。

帰順後、梁山泊軍は反乱討伐のため各地を転戦します。李俊もこれに参加し、田虎（でんこ）討伐においてはその本拠地を水攻めによって陥落させ、王慶（おうけい）討伐では逃亡を図る王慶を捕らえるという大きな功績を立てました。しかし、朝廷は一向にその功に報いようとせず、相変わらず奸臣たちが権勢を振るっている状況に、李俊たち水軍衆の不満と怒りは募っていきました。

この状況に見かねた李俊は、軍師である呉用（ごよう）に対し、「このままではボロ雑巾のように捨てられるだけだ。いっそ梁山泊に戻って、楽しく自由な生活を送ろうではないか」と宋江に掛け合ってもらうよう相談を持ちかけます。しかし呉用は、宋江の朝廷への忠誠心と帰順の決意は固く、このような提案は難しいだろうと諭し、実際に宋江も「一度帰順したからには、再び盗賊に戻るわけにはいかない」と表明したため、この計画は頓挫しました。この出来事により、李俊は梁山泊の将来や体制に半ば絶望したと考えられますが、その後も義理から最後まで宋江に付き従いました。

方臘（ほうろう）討伐の際、太湖（たいこ）周辺に住む費保（ひほう）、倪雲（げいうん）、上青（じょうせい）、狄成（てきせい）という四人の緑林の好漢に出会います（当初は方臘軍と間違えられ捕らえられました）。彼らと義兄弟の契りを結んだ時、彼らから「方臘討伐で手柄を立てても、結局は高俅（こうきゅう）らの奸臣に疎まれ、出世はおろか命すら危うくなるかもしれない。自由気ままな生活も失われるだろう。それよりは、自分たちで新しい土地を探し、自由に暮らそうではないか」と提案されます。李俊はこの提案に強く共感するところがありました。方臘攻めが終わり、開封（かいほう）への帰還の途中、李俊は病気になったと偽り、童威と童猛と共にその場に残ります。そして、上青らと共に暹羅（しゃむら）（『水滸伝』本伝では南海の島々と曖昧に記され、『水滸後伝』では澎湖列島の向かいの島々とされる）へと船出し、そこで王になったと『水滸伝』本伝にわずか1、2行で記されています。この記述を元に物語を膨らませて書かれたのが、後に『水滸後伝』として知られる小説です。

李俊は梁山泊における単なる武将ではなく、優れた知略と統率力、そして何よりも自由を愛する気質を持ち合わせた人物でした。組織内で高い地位につきながらも体制に盲従せず、最終的には自らの理想とする生き方を求めて梁山泊を離れた彼の生涯は、『水滸伝』の中でも特異な輝きを放っています。

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