李朝

李朝（りちょう）

「李朝」という言葉は、東アジアの歴史において、複数の異なる王朝や歴史上の人物を指す際に用いられます。これらの「李朝」は、地理的にも時代的にも大きく異なり、それぞれ独自の歴史的背景を持っています。一般的に「李朝」という呼称が使われる場合、文脈によってどの対象を指しているのかを明確に区別することが重要となります。

ベトナムの李朝（11世紀成立）

「李朝」と聞いて最も一般的に連想されるのは、11世紀初頭（1009年）に成立し、13世紀前半（1225年）まで存続したベトナムの王朝です。この王朝は、前王朝である前黎朝の混乱を収拾し、李公蘊（太祖）によって建国されました。ベトナム史上、中国からの独立を確立し、中央集権体制を強化した重要な時代と位置づけられています。都は現在のハノイに置かれた昇龍でした。李朝期は、仏教が隆盛し、独自の文化が花開いた時代としても知られています。国家制度の整備が進み、長期にわたる安定がもたらされましたが、末期には内乱や外圧によって衰退し、陳朝に取って代わられました。

朝鮮の李氏朝鮮（14世紀成立）

朝鮮半島において「李朝」と呼ばれるのは、14世紀末（1392年）に李成桂（太祖）によって建国され、19世紀末（1897年、その後大韓帝国へ移行）まで約500年間にわたり存続した朝鮮王朝を指すことが一般的です。ただし、朝鮮半島では正式には「朝鮮王朝」あるいは「李氏朝鮮」と称されることが多く、「李朝」という呼称はやや略式、あるいは特定の文脈（例えば、ベトナムの李朝と対比する場合など）で用いられる傾向があります。この王朝は、儒教を統治の根幹とし、社会構造や文化に大きな影響を与えました。首都は漢城（現在のソウル）に置かれ、長期にわたる統治を通じて朝鮮独自の文化を成熟させましたが、後期には内政の混乱や列強の干渉に苦しみました。

ベトナムの前李朝（6世紀成立）

前述の11世紀の李朝とは別に、ベトナムにはさらに遡る6世紀中頃（544年）にも李氏による王朝が存在しました。これが「前李朝」または「万春国」として知られる王朝です。李賁（リー・ボン、ベトナム語では Lý Bôn）によって建てられましたが、中国南朝梁の攻撃を受けて短期間で滅亡しました。ベトナムにおいて李氏が樹立した最初の独立王朝であり、その後のベトナム史における独立志向の源流の一つと見なされていますが、その存続期間は非常に短いものでした。

蜀の李朝（三国時代）

歴史上の人物としても「李朝」という名を持つ人物がいます。中国の三国時代、蜀漢に仕えた人物です。彼は武将であると同時に政治家としても活動し、蜀漢の設立と維持に貢献しました。ただし、彼自身は王朝を樹立したわけではなく、あくまで蜀漢という国家の一員として、その才能を発揮しました。彼の功績は歴史書などに記されていますが、同名の王朝と混同されることはほとんどありません。

このように、「李朝」という言葉は、時代や地域、あるいは文脈によって、11世紀ベトナムの李朝、朝鮮半島の李氏朝鮮、6世紀ベトナムの前李朝、そして三国時代の蜀の人物である李朝など、複数の異なる対象を指しうる多義的な用語です。それぞれの「李朝」が歴史の中で果たした役割や背景を理解するためには、その用いられている文脈を正確に把握することが不可欠です。

もう一度検索