前李朝

前李朝の興亡

前李朝（ぜんりちょう、ベトナム語: Nhà Tiền Lý）は、6世紀中頃から7世紀初頭にかけてベトナム北部を支配した王朝です。11世紀に登場する李朝と区別するため、一般的に前李朝と呼ばれています。

建国と独立

前李朝の創始者である李賁（りほん）は、5世紀末に中国で起きた動乱を避けてベトナムへ移住した中国系地方豪族の出身です。当時、ベトナム北部は南朝の梁の支配下にありましたが、541年に李賁は交州（現在のベトナム北部）で兵を挙げ、梁からの独立を宣言しました。

当初、梁は反乱を鎮圧するために軍を派遣しましたが、李賁の軍勢は龍編県を拠点に勢力を拡大し、交州と徳州を掌握します。542年には、梁軍の指揮官が疫病で大打撃を受け、李賁の勢力はさらに拡大しました。544年、李賁は自ら「南越帝」を称し、国号を「万春」と定め、元号を「天徳」と改めました。これにより、李賁は李南帝とも呼ばれるようになりました。

南北朝との戦い

独立を宣言した万春（前李朝）は、南朝の梁と激しい戦いを繰り広げました。545年、梁は陳霸先（ちんはせん）率いる遠征軍を派遣し、李賁の籠城する嘉寧城を包囲します。翌年、嘉寧城は陥落しましたが、李賁は屈獠の地に逃れ、抵抗を続けました。李賁は一度は勢力を盛り返し、典澈湖周辺に拠点を築きましたが、陳霸先の奇襲によって再び敗れ、屈獠洞に逃亡しました。

548年に李賁が死去すると、その兄である李天宝（りてんぽう）が九真郡で抵抗を続けました。李天宝は自ら「桃郎王」を称し、国号を「野能」と改めましたが、陳霸先に敗北を喫します。一方、李賁の部下だった趙光復（ちょうこうふく）は、沼地に拠って「趙越王」を名乗り、独自の勢力を築きました。

分裂と再統一

梁では侯景の乱が発生し、混乱に乗じて陳霸先が北へ帰還すると、交州近辺は南朝の影響力が低下し、前李朝は龍編県を取り戻します。555年に李天宝が病死すると、趙光復と李賁の部下であった李仏子（りぶっし）がその遺領を分割します。しかし、後に両者は対立し、557年に李仏子が趙光復を破り、最終的に君臣洲を境に、北を李仏子が、南を趙光復が治めることで合意しました。571年に趙光復が没すると、李仏子はその遺領を併呑し、前李朝を再統一しました。彼は峰州を新たな拠点としました。

隋との関係

589年、隋が陳を滅ぼして中国を統一すると、前李朝は隋の支配下に入りました。601年に隋の文帝が国内に仏塔を建てるよう命じた際、交州もその対象となり、龍編県の禅衆寺に舎利塔が建立されました。このことから、当時の前李朝の君主である李仏子が隋に従属していたことがわかります。

滅亡

しかし、隋が李仏子に長安へ出頭するよう命じたにもかかわらず、李仏子はこれに背き、隋に対して抵抗の姿勢を示しました。602年初頭、隋は劉方（りゅうほう）を交州道行軍総管に任じ、交州へ侵攻させました。李仏子は都隆嶺で隋軍を迎え撃ちましたが敗れ、古螺城に籠城するも包囲されて降伏し、長安へ連行されました。これにより、前李朝は滅亡しました。

前李朝は、ベトナムの独立を求める動きの中で誕生し、南朝の梁や隋といった強大な勢力と戦い、分裂と再統一を繰り返しながらも、短い期間ながらもベトナム北部に独自の支配を築いた王朝でした。

君主一覧

李賁（りほん）（李南帝）:544年 - 548年
李天宝（りてんぽう）（桃郎王）:548年 - 555年
趙光復（ちょうこうふく）（趙越王）:548年 - 571年
李仏子（りぶっし）:571年 - 602年

参考文献

『元号はやわかり : 東亜歴代建元考』砂書房、1994年。ISBN 978-4-915818-27-1。
『資治通鑑』
* 『大越史記全書』

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