李自成

李自成：明朝を滅ぼした農民反乱の指導者

李自成（り じせい）は、明朝末期に発生した大規模な農民反乱を率いた人物です。彼は明朝の首都である北京を陥落させ、明を滅亡に追い込みました。その後、自ら順王朝を建国し皇帝を名乗りますが、すぐに清軍に敗れ、その政権は短期間で終焉を迎えることになります。本記事では、彼の生涯と反乱の背景、そしてその後の歴史的評価について詳しく解説します。

生涯

農民反乱の勃興

李自成は、現在の陝西省楡林市横山区の農村部で生まれました。若い頃から騎射に長け、駅卒として働いていましたが、崇禎帝の時代に駅站が廃止され失業してしまいます。この駅站廃止は、多くの失業者を生み出し、彼らが農民反乱に加わる大きな要因となりました。李自成もその一人として反乱に参加することになります。

天啓7年（1627年）から崇禎元年（1628年）にかけて陝西省で発生した大旱魃をきっかけに、各地で反乱が頻発します。李自成もこの反乱に参加し、当初は高迎祥という反乱軍の指導者の下で武将として活動していました。この時期の明朝は満洲族への対応に追われ、反乱への対策が不十分だったこともあり、反乱軍は勢力を拡大させていきます。

反乱軍の指導者へ

当初、反乱軍は官軍の反撃により一時的に勢力が衰えますが、李自成は「滎陽大会」という作戦会議で全軍が協力して官軍に対抗すべきだと主張し、注目を集めます。その後、高迎祥が官軍に捕らえられ処刑されると、李自成はその後継者として反乱軍の指導者となり、「闖王」を名乗るようになります。ただし、「滎陽大会」は後世の創作であるという説も存在します。

一時的に勢力を弱めていた李自成軍ですが、官軍が張献忠軍に圧力をかけたことで息を吹き返し、河南を制圧します。この地で李巌という人物と出会い、「均田」（耕地の平等な分配）と「免糧」（当面の間租税を免除する）というスローガンを掲げ、農民からの支持を急速に拡大させました。しかし、この李巌という人物も後世の創作であるという説もあります。

順王朝の建国と滅亡

勢力を拡大した李自成軍は、崇禎14年（1641年）には洛陽を陥落させ、福王朱常洵を殺害します。福王は民衆の恨みを買っていたため、李自成軍は民衆からの支持をさらに高めます。その後、開封を制圧し、崇禎16年（1643年）には襄陽で「新順王」を名乗り、国家としての制度を整え始めます。そして、西安を陥落させ、この地を国都と定め、国号を「順」、元号を「永昌」と定めました。これにより、李自成は正式に順王朝を建国しました。

崇禎17年（1644年）、李自成軍は北京に向けて北伐を開始し、3月には北京を陥落させ、崇禎帝を自殺に追い込み明を滅亡させます。しかし、北京に入城した李自成軍は、高官や資産家からの資金没収や略奪行為に走り、軍規も緩んでしまいます。さらに、満洲族の清が呉三桂の投降を受け入れ、清軍が南下を開始します。

李自成軍は、清と明の遺臣の連合軍に大敗を喫し、北京から撤退します。北京を占領していた期間はわずか40日という短期間でした。その後、李自成は西安、通城と逃れますが、永昌2年（1645年）に九宮山で地元の農民によって殺害されました。ただし、僧侶に変装して生き延びたという伝説も存在します。

死後と評価

李自成の死後、清が北京に入城し、崇禎帝の葬儀を手厚く執り行い、李自成を討ったという大義名分のもと漢地支配を正当化します。これにより、李自成は清代を通して反逆者として扱われました。しかし、辛亥革命後、郭沫若によって農民反乱の指導者として再評価されるようになり、毛沢東もこの評価を支持しました。

逸話

北京では、李自成が毎日餃子を食べていたという逸話が伝えられています。餃子は「交」に通じ「末永く」という意味を持つため、歴代皇帝は春節にしか餃子を食べなかったのですが、李自成が毎日食べたため、順王朝が短命に終わったというものです。これは、李自成に対する批判的な見方を反映した逸話と言えるでしょう。

李自成は、明朝を滅亡に追い込んだ重要な人物の一人であり、その後の歴史にも大きな影響を与えた人物です。彼の生涯は、激動の時代における農民の反乱と、その指導者の栄枯盛衰を象徴するものとして、今日まで語り継がれています。

参考文献

『明史』
姚雪垠著、陳舜臣・陳謙臣共訳『叛旗 小説李自成』
小前亮『十八の子 李巌と李自成』
『明季北略』

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