李鋭

李鋭：毛沢東の秘書から改革派の論客へ

李鋭（1917年4月13日 - 2019年2月16日）は、20世紀後半の中国を揺るがした数々の歴史的出来事を生き抜き、その中で一貫して民主化を訴え続けた、特筆すべき人物です。毛沢東の秘書という経歴を持つ一方で、権力の中枢で体制批判を展開し続けた、複雑で興味深い生涯を送りました。

初期の経歴と党への参加

北京生まれの李鋭は、武漢大学工学院で学び、1935年には一二・九運動に参加。1937年には中国共産党に入党しました。延安や東北で青年工作に従事するなど、党の中枢で重要な役割を担っていく過程で、中国共産党の理想と現実との間に存在する矛盾を目の当たりにすることとなります。

毛沢東の秘書時代と「大躍進」への批判

1958年、李鋭は毛沢東の秘書に就任します。この時代、李鋭は毛沢東の側近として、中国共産党の政策決定過程に深く関与しました。しかし、1950年代後半から始まった「大躍進」政策の行き過ぎに強い危機感を抱き、その批判を唱えます。この批判が原因で、李鋭は職務を解任され、党籍を剥奪されます。

文化大革命と投獄

1966年から始まった文化大革命では、反革命分子として投獄され、過酷な状況に置かれます。この経験は、李鋭の民主化への思いをさらに強くしたと考えられます。文化大革命終結後、名誉回復を果たしますが、その後の政治的活動も決して平坦なものではありませんでした。

改革派としての活躍と晩年の活動

1979年に名誉回復後、李鋭は中国共産党中央組織部副部長などの要職を歴任しました。1991年に創刊された改革派の雑誌『炎黄春秋』の編集顧問を務め、改革派の論客として活発な活動を展開します。晩年には、言論統制の強化に懸念を示し、他の引退した幹部らと連名で言論の自由を求める公開書簡を発表するなど、その批判的な姿勢を貫きました。2018年には、アメリカメディアのインタビューで習近平政権を批判する発言も行っています。

日記と歴史的価値

李鋭は建国以来70年以上に渡って日記を書き続けました。この日記は、中国共産党の一党支配体制、その内部の権力闘争、そして数々の政治運動の実態について貴重な情報を提供する一次資料です。李鋭の生涯と、その日記が後世に残した影響は計り知れません。

死去とその後

2019年2月16日、李鋭は101歳で死去しました。葬儀は北京の八宝山革命公墓で行われましたが、外国メディアは排除されるなど、警戒態勢が敷かれたものでした。彼の死は、中国における民主化運動を象徴する一つの出来事として記憶されています。

李鋭と民主化

李鋭は、中国共産党内部に身を置きながらも、一貫して民主化を訴え続けました。毛沢東の秘書という立場から、中国共産党の権力構造や政治過程を深く理解していたからこそ、その矛盾点を指摘し、改革を強く求めたと言えるでしょう。その活動は、中国の民主化運動に大きな影響を与え、現代中国を考える上で重要な視点を提供しています。彼の経験と主張は、民主主義の普遍性と重要性を改めて認識させるものとなっています。

翻訳された著作

李鋭の著作は、日本語にも翻訳されており、彼の思想や経験を理解するための貴重な資料となっています。代表的な翻訳書には、『若き毛沢東 青年時代の思想形成』（松井博光・玉川信明訳）、『毛沢東の功罪 毛沢東晩年の「左」の誤った思想に関する試論』（橋本剛監修、山本雄子訳）、『中国民主改革派の主張 中国共産党私史』（小島晋治編訳）などがあります。これらの著作は、中国近代史研究においても重要な参考文献となっています。

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