杏仁

杏仁：漢方薬として、そして杏仁豆腐の原料として

杏仁（きょうにん）とは、アンズの種子の中心部にある仁（さね）を乾燥させたものです。長さ11～15mmほどの扁平で先が尖った卵円形をしており、左右非対称な形状が特徴です。

漢方薬としての杏仁

熟したアンズの果実から核を取り出し、陰干し、日干しを経て作られる杏仁は、古くから生薬として用いられてきました。日本薬局方では、ホンアンズとアンズが原植物として規定されています。

主な用途は鎮咳作用を持つ生薬としてで、茯苓杏仁甘草湯や麻杏甘石湯など、多くの漢方処方に配合されています。さらに、杏仁油や杏仁水の原料としても利用されています。

中国最古の本草書の一つである『名医別録』では「杏核人」、また『薬性論』では「杏人」と記述されています。日本の歴史書『延喜式』にも、山城国、摂津国、甲斐国、信濃国から杏仁が朝廷に献上された記録が残されています。これは、古くから杏仁が重要な生薬として認識され、利用されてきたことを示しています。

バラ科植物の仁との識別

杏仁は、桃仁（モモの種子）、梅仁（ウメの種子）、アーモンドなど、バラ科植物の仁と同様に、古くから生薬や食用として用いられてきました。しかし、アーモンドを除き、これらの仁の区別は非常に困難です。

『本草辨疑』という古典籍には、桃仁は比較的容易に識別できるものの、杏仁と梅仁はよく似ており、混同して売買されることがあると記されています。実際、現代の生薬市場においても、『本草辨疑』で識別しやすいとされた桃仁にさえ杏仁が混入しているケースが見られます。これは、生薬の取り扱いにおいて、専門的な知識と注意深い識別が求められることを示しています。

杏仁の多様な用途

杏仁は漢方薬としての利用に加え、杏仁豆腐の原料としても広く知られています。独特の風味と滑らかな食感が特徴的な杏仁豆腐は、デザートとして親しまれ、日本を含む東アジア各国で楽しまれています。杏仁の持つ多様な用途は、古来から続くその価値を物語っています。

まとめ

本稿では、アンズの種子から作られる杏仁について、その形状、生薬としての歴史、漢方薬への配合、そして他のバラ科植物の仁との識別について解説しました。杏仁は、単なる生薬ではなく、歴史と文化、そして食文化を深く繋ぐ重要な植物資源であると言えるでしょう。今後の研究により、杏仁の薬理作用や安全性に関する更なる知見が得られることが期待されます。

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