村岡美枝 (陸上選手)

村岡美枝氏は、1913年（大正2年）3月23日に愛知県で生まれた日本の陸上競技選手です。専門は短距離走でした。まだ女子がスポーツの世界で国際的な舞台に立つことが一般的ではなかった時代に、日本の女子陸上界を牽引した選手の一人として知られています。

村岡氏は、現在の愛知県立明和高等学校の前身校にあたる愛知県第一高等女学校に在学中からその才能を発揮しました。1930年（昭和5年）には、チェコスロヴァキアのプラハで開催された第3回国際女子競技大会へ日本代表として派遣されました。この時の日本選手団はわずか6名という少数精鋭であり、日本の女子スポーツを牽引していた人見絹枝選手を除くと、全員が学生選手という若いチームでした。村岡氏もまた、その中の貴重な学生選手の一人として国際大会の経験を積んだのです。

国際女子競技大会の中心的な存在であった人見絹枝選手は、翌1931年（昭和6年）に若くして亡くなりました。その葬儀において、村岡氏は代表選手を代表して弔辞を読み上げました。弔辞の中で村岡氏は、「お姉さんは女子スポーツに多大な貢献をされ、その偉大な足跡は決して消えることがないでしょう」と故人の功績を称えました。そして、自身を「非力」と謙遜しながらも、「お姉さんの遺志を継いで、女子スポーツの発展のために全力を尽くして頑張るつもりです」と、先輩の思いを受け継ぎ、未来へ繋げていく強い決意を述べました。このエピソードは、当時の女子選手たちが互いを敬愛し、共に日本のスポーツを盛り上げようとしていた姿を今に伝えています。

1932年（昭和7年）には、アメリカ合衆国のロサンゼルスで開催された第10回オリンピック競技大会に日本代表として出場しました。村岡氏は女子400メートルリレー走のメンバーとして、中西みち選手、土倉麻選手、渡辺すみ子選手と共にバトンを繋ぎました。世界の強豪が集まる舞台で、日本チームは健闘し、見事5位に入賞という素晴らしい成績を収めました。これは、まだ国際的な競技経験が浅かった当時の日本の女子陸上界にとって、歴史に残る快挙であり、後続の選手たちに大きな希望と目標を与える出来事でした。

ロサンゼルスオリンピックと同じ年の1932年、国内最高峰の大会である日本陸上競技選手権大会が開催されました。村岡氏はここで、自身の専門種目の一つである女子200メートル走において優勝を果たし、国内の頂点にも立ちました。国際舞台での活躍に続き、国内でも揺るぎない実力を示したのです。

村岡美枝氏の活躍した時代は、戦前の日本の女子スポーツがまさに黎明期を迎えていた時期にあたります。舗装された競技場も少なく、練習環境も現在とは大きく異なる中で、選手たちは純粋な情熱と努力によって道を切り拓いていました。村岡氏は、国際大会での経験、人見絹枝選手への追悼の言葉に込められた誓い、そしてオリンピックでの入賞や国内選手権での優勝といった実績を通じて、当時の女子陸上界の発展に確かに貢献した選手の一人と言えるでしょう。没年については詳しい情報が残されていませんが、その競技人生は日本の女子スポーツ史に重要な一ページを刻んでいます。

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