村祭り (ルーベンスの絵画)

作品の概要

『村祭リ』（または『ケルメス』、『村の結婚式』）は、17世紀バロック期を代表するフランドルの画家、ピーテル・パウル・ルーベンスが1635年から1638年にかけて制作した油彩画です。この作品は、ルーベンス晩年の作品の一つであり、フランドルの賑やかな村祭りの様子を描いた風俗画として知られています。1685年にフランス王ルイ14世の所有となり、その後1793年にルーヴル美術館が開館して以来、同美術館に所蔵・展示されています。

作品の詳細

この作品のフランス語名である「ケルメス」は、フランドル地方特有の村祭りを指します。この祭りは、教会の献堂記念に行われる縁日のようなもので、宗教的な行事に加え、市場が開かれたり、人々が踊りや飲食を楽しんだりして盛大に祝われます。16世紀のピーテル・ブリューゲル以来、農民の生活を描いた風俗画はネーデルラント地方で人気があり、17世紀にはアドリアーン・ブラウエルによって新たな活力が注ぎ込まれました。ルーベンスはブラウエルの作品に親しみ、その作品を収集していたことでも知られています。実際に、ルーベンスの遺産目録にはブラウエルの作品が17点も記載されています。本作は、農民が村祭りで踊りに興じる様子をリアルに描いたルーベンス唯一の農民風俗画とされています。このことから、ブラウエルの影響を受けていることは十分に考えられます。

さらに、ルーベンスは友人であった画家ヤン・ブリューゲルの依頼により、彼の父であるピーテル・ブリューゲルの墓碑画を制作しており、ブリューゲルの作品を数点所有していたことでも知られています。本作には、ブリューゲルの影響も見られ、例えば前景右側の小屋から突き出ているブタの鼻は、大食漢を示す古い象徴として描かれています。

農民たちの動きは、円が螺旋状に渦巻いているかのように見事に表現されており、画面全体が活気に満ち溢れています。人々は酒を飲み、口論し、女性を口説き、踊り、騒ぎ立て、その喧騒が画面から伝わってくるようです。特に、木の下で楽器を演奏する男たちから、踊る男女の群れへと続く動線が、生命のリズムを感じさせます。ブリューゲル以降、絵画における農民は無骨で滑稽な存在として描かれることが一般的でしたが、本作で踊っている幾組かの人物像には、ルーベンスの『ヴィーナスの祝祭』に見られる神話的な人物との共通性が見出せます。1683年に本作を目録に記載した画家シャルル・ルブランは、この絵画を『村の結婚式』と名付けましたが、結婚しているカップルが描かれていないため、この題名は適切ではないと考えられています。

近年、本作の風景や静物部分は、1630年頃にルーベンスと接触があったとされるオランダの画家、コルネリス・サフトレーフェンによって描かれたものだと推定されています。

まとめ

ルーベンスの『村祭リ』は、フランドルの村祭りの賑やかさを、躍動感あふれる筆致で捉えた傑作です。農民たちの生き生きとした姿や、祭りの喧騒が画面から伝わってくるようです。この作品は、ルーベンスの卓越した画力と、農民風俗画への深い理解を示すとともに、ブリューゲルやブラウエルといった他の画家の影響も感じさせる、見どころの多い作品と言えるでしょう。

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