風俗画

風俗画（Genre Painting）

風俗画は一般市民の普段の生活や日常のさまざまな側面を描写した芸術作品を指します。このジャンルは、写実的な表現から理想化や想像を伴った表現まで幅広く存在します。その親しみやすさや感傷的なテーマが人気を集め、特にブルジョワ階級や中産階級に愛されてきました。「プティ・ジャンル」という呼称は、歴史画などの偉大なジャンル（グラン・ジャンル）に対する相対的な意味で用いられています。

歴史的背景

風俗画は美術の歴史のほぼすべての伝統に存在し、古代エジプトの王墓に見られる装飾や、中世の時祷書の農民の日常描写など、さまざまな時代に展開されました。特に、フランドルのルネサンス期の画家ピーテル・ブリューゲル（父）は、農民とその生活を題材にした作品を多く残し、北ヨーロッパにおける風俗画の流行を並走させました。

17世紀のネーデルラントでは、アドリアーン・ファン・オスターデやイサーク・ファン・オスターデ、ダヴィッド・テニエルス、アルベルト・カイプ、ヨハネス・フェルメール、ピーテル・デ・ホーホなど、多くの風俗画の専門家が登場しました。これらの画家による小型の作品は、中産階級の家庭に好まれるスタイルであったのです。

各国における風俗画

イタリアでは、オランダの画家ピーテル・ファン・ラールが1625年にローマに来訪し、風俗画派と呼ばれるスタイルが隆盛を迎えることとなりました。彼の影響を受けた画家の中にはジャコモ・チェルティやアントニオ・チフロンディ、ジュゼッペ・クレスピがいます。フランスにおいては、ルイ・ル・ナンが17世紀に風俗画を手掛け、その後18世紀には日常生活を描くことへの興味が高まりました。画家たちは、ヴァトーやジャン・オノレ・フラゴナールの感傷的な描写や、ジャン・シメオン・シャルダンの写実主義的な作品を通じて、多様な表現を試みました。

一方、イギリスではウィリアム・ホガースが庶民の生活をテーマにした連作で、社会風刺や教訓を盛り込むことで、風俗画に新たな視点をもたらしました。スペインではフランシスコ・デ・ゴヤが、風俗画を人間の苦悩の記録として位置付ける作品を残しました。

中国の風俗画も古くからの伝統を持ち、漢代から唐代以降に士女図が描かれ、北宋末期の張択端による《清明上河図》が風俗描写の基盤となりました。日本でも、平安時代や鎌倉時代に風俗的な表現が用いられ、江戸時代には浮世絵が発展し、余暇を楽しむ人々や働く人々の姿が豊かに描かれました。

アメリカでは、ドイツ移民のジョン・ルイス・クリメルが19世紀初頭に風俗画を展開し、日常生活をユーモラスに描写しました。その後、19世紀には歴史画や宗教画の衰退によって、画家たちは自らの周囲の日常を描くようになります。たとえば、ギュスターヴ・クールベのような写実主義者は、日常生活を描くために大型のキャンバスを使用し、新たな芸術表現を生み出しました。

20世紀になると印象派やピエール・ボナール、エドワード・ホッパーが風俗画を新たな形で展開し、アーニー・バーンズやノーマン・ロックウェルなどのイラストレーターによって、現代の風俗画が定義されるようになりました。風俗画は庶民の日常を描くため、過去の時代を知るための貴重な資料でもあるのです。

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