来民開拓団

来民開拓団：国策に翻弄された人々の悲劇

来民開拓団は、熊本県鹿本郡来民町（現在の山鹿市）の南古閑地区、主に被差別部落出身者によって組織された満州開拓団です。1941年4月、ハルピン南西約150kmの満州国吉林省扶余県五家站に入植しました。入植者数は82戸316人にのぼりますが、そのうち約3割は被差別部落出身ではありませんでした。

日本史上唯一の事例

来民開拓団は、国策によって行われた部落出身者を中心とした唯一の海外移住事例です。長野県でも同様の計画がありましたが、労働力不足により実現には至りませんでした。この事実が、来民開拓団の特異性を際立たせています。

移住の背景

南古閑地区は、水平社よりも中央融和事業協会の影響が強い地域でした。満州移住は、差別からの解放と20町歩の地主になれるという謳い文句で、有力者たちによって推進されました。来民町議の松山政太郎、豊田千代蔵、豊田一次らが移住に賛同し、実現へと動きました。

悲劇的な結末

1945年8月13日、警察官から避難命令を受けたものの、男手が少なく準備が進まないまま出発時刻を迎えます。複数の集落が集まらずにいたところ、襲撃を受け2名の死者を出してしまいます。鉄砲で救助活動を行ったものの、移動に必要な食料の準備も不十分な状況でした。15日には馬車を用意すると嘘の情報を伝えられ、馬車を受け取りに行った数名が人質にされ、その身柄と引き換えに武装解除させられました。人質は解放されたものの、団は満人に包囲され、周囲が青天白日旗を掲げている状況から終戦を悟ります。討ち死を覚悟した団員たちは徹底抗戦を決意し、本部を閉ざしました。同日夜、約500人の暴民が襲撃を開始し、武装解除されていた団員たちは、レンガや竹槍で応戦しましたが、最終的に集団自決を決意。8月17日、276名が自決しました。徴兵などで開拓地にいなかった者以外で生き残ったのは、報告の任を受け、火災に紛れて脱出した宮本貞喜氏のみでした。

戦後の苦難

生き残った帰国者を待ち受けていたのは、「身内殺しの部落民」という非難の言葉でした。彼らは、故郷で厳しい差別に苦しみながら、深い心の傷を抱えながら生きていくことになりました。

歴史的意義と教訓

来民開拓団の歴史は、国策に翻弄された人々の悲劇を物語っています。また、部落差別という根深い社会問題が、戦争という極限状態の中でどのように現れたのかを示す事例でもあります。この悲劇を風化させることなく、歴史から学び、差別のない社会を築いていくことが、私たちに課せられた使命と言えるでしょう。

参考資料

読売新聞社編『昭和史の天皇　第6巻』
高橋幸春 著『絶望の移民史―満州へ送られた「被差別部落」の記録』
『潮』1971年8月号 宮本貞喜「集団自決273人の遺書配達人─実録・来民(くたみ)開拓団」
『赤き黄土 地平からの告発来民開拓団』
『熊本県未解放部落史研究第1集』
『部落解放研究くまもと』第24号、第25号
『熊本県水平社70年記念』
『西日本新聞』1990年8月11日-8月19日「墓標なき大地」
エイミー・ツジモト著、『満州分村移民と部落差別 ―熊本「来民開拓団」の悲劇―』

関連情報

移民
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部落問題
* 満蒙開拓団 殉難者拓魂 九州

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