満蒙開拓移民

満蒙開拓移民とは

満蒙開拓移民とは、1931年（昭和6年）の満洲事変以降、1945年（昭和20年）の太平洋戦争終結までの期間に、日本政府が推進した国策によって、満洲（中国東北部）、内蒙古、華北へと移住した日本人移民の総称です。満蒙開拓団とも呼ばれます。

この移民政策は、1932年（昭和7年）から、日本の大陸政策の要として、また昭和恐慌で疲弊した農村の救済策として実行されました。1945年の終戦までに、日本各地から満洲・内蒙古へ約27万人の開拓民が移住しました。

概要

1938年から1942年の間には、20万人の農業青年が、1936年には2万人の家族移住者が送り込まれました。移住の責任者は加藤完治が務め、満洲拓殖公社が事業を担いました。この移住は1945年半ばまで続きましたが、日本軍が制海権と制空権を失ったことで停止しました。

昭和恐慌と試験的移民期

満蒙開拓団事業は、昭和恐慌で疲弊した農村を中国大陸への移民によって救済しようという加藤完治らの主張と、満洲国の維持と対ソ戦の兵站地形成を目指す関東軍の思惑が一致して発案されました。当初は反対も多かったものの、試験移民として発足し、1936年までの5年間で年平均3000人の移民が送られました。

二・二六事件と本格的移民期

1936年の二・二六事件を機に、政治の実権が軍部に移ると、反対論が弱まり、広田弘毅内閣は満蒙開拓事業を七大国策事業の一つに位置づけました。関東軍が作成した「満洲農業移民百万戸移住計画」に基づき、「二十カ年百万戸送出計画」が策定されました。1937年には満蒙開拓青少年義勇軍が発足し、1938年には分村移民が開始、1939年には日本と満洲の両政府による「満洲開拓政策基本要綱」が発表されました。1937年から1941年までの5年間は「本格的移民期」となり、年平均3万5000人もの移民が送られました。

日中戦争と移民崩壊期

日中戦争の拡大により、国内の労働力が不足するようになると、成人移民希望者は激減しました。しかし、国策としての移民計画は変更されず、国は各府県にノルマを割り当て、町村は組織を動員してノルマ達成を目指しました。補助金による分村開拓団や義勇軍開拓団の編成が進められましたが、予定入植戸数に達しない「虫食い団」が続出しました。1940年には同和地区からも開拓団が編成され、1941年からは失業した都市労働者も動員されました。青少年義勇軍を含めると、約32万人が移住したとされます。

開拓民が入植した土地の約6割は、漢人や朝鮮人が耕作していた既耕地を買い上げたもので、開拓地と呼べない場所も多くありました。

ソ連参戦と終焉

太平洋戦争末期になると、開拓団からの召集が増え、1945年7月の「根こそぎ動員」では約4万7000人が召集されました。同年8月9日にソ連軍が満洲に侵攻すると、関東軍は開拓移民を置き去りにして逃亡しました。ソ連参戦時の「満蒙開拓団」在籍者は約27万人でしたが、「根こそぎ動員」された4万7000人を除くと、残されたのは主に老人、女性、子供たちでした。男手を失った開拓民は逃避行を余儀なくされ、その過程や難民生活で約8万人が死亡しました。主な死因は、収容所での伝染病、戦闘、地元民からの襲撃、そして集団自決などです。敗戦時に旧満洲にいた日本人の死者約20万人のうち、4割を開拓団員が占めました。

辛うじて都市に辿り着いた人々も、収容所で飢えや病気に苦しみ、多くの孤児や婦人が中国人によって買われました。満洲に取り残された日本人の犠牲者は約24万5000人にのぼり、開拓団員の犠牲者数はその大部分を占めます。これは東京大空襲や広島への原爆投下、沖縄戦を凌ぐ規模でした。

帰国できた元開拓移民も、生活苦にあえぎ、多くが国内の開拓地に入植したり、南米へ移住したりしました。また、中国人に買われた孤児や婦人が約1万人いたため、中国残留日本人問題が生まれ、その帰還問題は21世紀まで続く現代的な課題となっています。

長野県には、満蒙開拓平和記念館があり、開拓団の生活や逃避行についての証言を収集しています。

開拓民の出身地

満蒙開拓に送り込まれた27万人のうち、長野県出身者が約3万4千名と最も多く、全体の12.5%を占めました。次いで多かったのは山形県で、長野県の2.4倍でした。

背景

満蒙開拓移民政策は、日本の対満政策における治安維持の一環として、軍事的な側面も持っていました。屯田兵移民による治安維持や、財政負担の軽減が意図されていました。

費用案

中島仁之助の論文「我が農業と満蒙移民」によれば、一人当たりの移住費用は以下のように試算されていました。

土地購入費（二十五エーカー）：1000円
家屋：200円
農具その他必要品：200円
生活費（移住後一年間）：400円
渡満費：200円

年表

1925年：加藤完治が朝鮮半島への実験移民を開始。
1929年：世界恐慌。
1930年：昭和恐慌により農村不況が深刻化。
1931年：満洲事変勃発を機に移民政策が活発化。
1932年：加藤完治らが満洲への試験移民を開始。
1936年：満洲農業移民百万戸移住計画が閣議決定。
1937年：日中戦争勃発により成人移民の確保が困難に。
1938年：満蒙開拓青少年義勇軍が制度化。
1940年：年間送出実績が計画期間中最多に。
1941年：移民実績総計が約4万6000戸に。
1945年：送出移民総数約27万人。終戦時に多くの犠牲者を出す。

入植の実態

満蒙開拓移民団の入植地確保のため、満洲拓殖公社は、既存の地元農民が耕作していた土地を「無人地帯」に指定し、強制的に買い上げました。およそ2000万ヘクタールの土地が収容されました。買収価格は当時の時価の1割から4割程度と非常に安価でした。このように、開拓民が入植した土地の多くは、地元住民から強制的に奪われたものでした。

満洲国は日本の「外地」ではなく、承認された一国家でしたが、開拓民は日本国籍のまま、日本人社会の中で生活していました。彼らは、学校、神社、医療施設などを備えた日本人コロニーを形成し、現地住民との交流は限られていました。また、広大な農地を与えられましたが、自家のみで耕作するのは困難なため、現地の労働者を雇ったり、小作に出したりする地主的な経営にならざるを得ませんでした。

満洲開拓政策基本要綱

「満洲開拓政策基本要綱」は、日満両政府の責任分担を明確化し、開拓用地の整備や移民の区分、入植形態などを規定しました。また、満洲拓殖委員会の運営や満鮮拓植会社の満洲拓植公社への統合も決定しました。この要綱によって、日本人移民政策における満洲国政府の位置づけが大きく転換しました。

石原莞爾と甘粕正彦

石原莞爾と甘粕正彦は、満蒙開拓武装移民には否定的でしたが、甘粕は、加藤完治の農本主義的な思想には共感していました。

関連作品

ドキュメンタリーや映画など、満蒙開拓移民を題材とした作品が数多く制作されています。

脚注

参考文献として、多くの研究書や証言集が刊行されています。

関連項目

関連する人物や事件、施設などが多数あります。

外部リンク

関連する動画や情報が公開されています。

もう一度検索