東京の暴れん坊

概要

1960年に日活が製作・公開したアクションコメディ映画。監督は斎藤武市、主演は当時の看板スターである小林旭が務めた。松浦健郎の原作を基に石郷岡豪が脚本を執筆。撮影も高村倉太郎が担当するなど、『赤い夕陽の渡り鳥』を手がけた主要スタッフが多く参加している。

あらすじ

物語の中心となるのは、東京・銀座で人気のキッチン「ジロー」を切り盛りする若きフランス料理シェフ、清水次郎。かつてはパリで修業し、レスラーとしても活動したという異色の経歴を持つ彼は、卓越した料理の腕前と日本人離れした端正な顔立ちで、行く先々で女性たちの熱狂的な視線を集めるが、それが予期せぬ騒動を巻き起こす火種となる。

次郎が憩いの場である銭湯「松の湯」で心地よく歌っていると、その歌声は女湯まで響き渡り、バーのマダム・リラコをはじめとした女性客たちを大いに沸かせる。この銭湯の経営者の娘である松田秀子は、次郎の大学時代の後輩にあたる女性だ。彼女の家族は、銭湯を大型ソープランドに建て替える計画を進める浅井産業の代表から、甘い言葉で誘惑を受けていた。さらに、代表の息子である隆三は秀子に強引な結婚を迫っており、「松の湯」の行く末は、浅井家の思惑と秀子たちの間で揺れ動く。

そんなある日、次郎の店に日本の政界を牛耳るとされる黒幕、元首相の一本槍紀左衛門が姿を見せる。彼を追いかける新聞記者たちの騒ぎにも動じず、次郎は一本槍の無礼な態度を厳しく叱責する。この一見無謀な行為が、かえって一本槍の興味を引きつけ、奇妙な師弟関係にも似た絆が生まれる。

一本槍紀左衛門との関係を知った愚連隊の幹部、仙吉と小西は、一本槍をネタに金銭を強請ろうと企むが、駆けつけた次郎によってあっけなく撃退される。一本槍の強力な後ろ盾を得たキッチン「ジロー」は、やがて国内最高のレストランへと生まれ変わる。その開店祝いにはリラ子も駆けつけ、彼女を巡る複数の男たちの争いを次郎が鮮やかに収拾する一幕も見られる。

以前次郎に撃退された愚連隊の仙吉は、なぜか改心したかのように次郎の部下となる。物語はさらに展開し、次郎の店で働く女性従業員、敏子が、交際相手に裏切られたショックから自殺未遂を図る事件が発生する。次郎は敏子を懸命に励まし、彼女を弄んだ男、中村清を探し出す。しかし、中村にはすでに妻子がいることが判明。さらに深く真相を追う次郎は、中村が実は敏子の本当の相手である浅井隆三の身代わりであったことを突き止める。

浅井産業が関わる不正と、それに絡む政界の闇を察知した次郎は、一本槍紀左衛門と協力し、大胆な策略を巡らせる。それは、秀子と隆三の結婚式という場を利用し、敏子を代理の花嫁として送り込むという前代未聞の計画だった。次郎と一本槍の巧みな策略により、敏子は浅井隆三と結ばれるという波乱の展開を迎える。銭湯の買収計画を阻止された浅井代表は、報復として愚連隊を使い次郎の店を破壊しようとするが、一本槍紀左衛門は泰然自若とした態度で、「何度壊されても、より強固な建物を建て直すだけだ」と豪快に笑い飛ばすのだった。

キャスト・スタッフ

主役の清水次郎を演じるのは、当時「アキラ節」で一世を風靡していた小林旭。銭湯の娘・松田秀子役には、日活の若手スターであった浅丘ルリ子。その他、リラ子役に中原早苗、一本槍紀左衛門役に小川虎之助、浅井産業社長役に三島雅夫など、日活映画でおなじみの実力派俳優陣が脇を固めている。藤村有弘演じる金田や、近藤宏演じる仙吉など、コミカルなキャラクターも物語に彩りを添える。

監督は『渡り鳥』シリーズなどで小林旭とタッグを組むことの多かった斎藤武市。脚本は石郷岡豪、原作は松浦健郎。撮影は高村倉太郎、音楽は小杉太一郎が担当した。特筆すべきは、後に日本映画界を代表する監督となる神代辰巳が助監督を務めている点である。主題歌の「東京の暴れん坊」をはじめ、複数の楽曲が映画を盛り上げている。

作品の特徴

本作は、小林旭の魅力を存分に引き出した日活アクションコメディの典型的な一作と言える。イケメンで料理の腕も立ち、歌も歌えて喧嘩も強いという主人公は、当時の観客を熱狂させた。銭湯買収や政界スキャンダルといった社会派のテーマも盛り込みつつ、それをシリアスになりすぎず、アクションやコメディ、そして小林旭の歌とユーモアで包み込む手腕が見られる。公開時には、井田探監督、小高雄二主演の『野郎！　地獄へ行け』と併映された。

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