東京ヴィデオ・ホール

東京ヴィデオ・ホール（とうきょうヴィデオホール）は、かつて東京都千代田区有楽町に存在した、ラジオおよびテレビの公開番組向けに貸し出されるスタジオでした。通称として「有楽町ビデオホール」や単に「ビデオホール」とも呼ばれていました。場所は有楽町1丁目9番4号の蚕糸会館6階に設けられていました。

開設の背景

戦後、日本の放送業界は大きな変革期を迎えていました。1951年12月25日にラジオ東京、1952年3月31日に文化放送といった民間のラジオ局が相次いで開局し、その後も新たなラジオ局の開設が見込まれていました。同時に、戦前から実験放送が行われていたテレビの本放送開始も目前に迫っていました。

このような状況下で、各放送局が自社内に持つスタジオだけでは、増大する番組制作需要に対応しきれないと予測されました。そこで、複数の放送局が共用できる外部スタジオの必要性が高まります。

毎日新聞社グループで要職を務めた後、独立した小谷正一は、この需要に応えるべく1953年10月31日にラジオ・テレヴィ・センターを設立。有楽町の蚕糸会館6階に、約400名が収容可能な公開番組対応型の賃貸スタジオとして「東京ヴィデオ・ホール」を開設しました。

黎明期と最盛期

東京ヴィデオ・ホールが開設された1953年は、テレビ放送が本格的に始まる年でもありました。同年2月1日にはNHK総合テレビジョンが、8月28日には日本テレビが開局。さらに1954年にはニッポン放送が、1955年にはラジオ東京テレビ（後のTBSテレビ）、1959年には日本教育テレビ（後のテレビ朝日）、フジテレビジョンといった民放テレビ局が続々と放送を開始しました。

ラジオ、特にテレビ放送の黎明期において、放送局は番組制作のノウハウがまだ確立されておらず、試行錯誤の段階でした。娯楽番組としては、スタジオでのラジオドラマ録音や生放送のテレビドラマに加え、落語、講談、浪曲、漫才といった演芸、邦楽、クラシック、ジャズなどの音楽といった既存の芸能や芸術を基にした公開放送番組が制作の主流となりました。このため、開場当初から東京ヴィデオ・ホールの利用は非常に活発でした。

さらに、公開放送だけでなく、スタジオ不足を補うための非公開収録や、番組の制作・編集スペースとしても利用され、連日夜遅くまで予約が埋まっているような状況でした。

放送番組の収録や中継以外にも、一般的な賃貸ホールとしても幅広く活用されました。1954年からは第四次落語研究会の会場となり、1962年からの創作落語会初期にも使用されました。また、1954年に始まった音楽イベント「ウエスタンカーニバル」の会場としても知られ、これは後に日劇ウエスタンカーニバルへと発展しました。当時の流行であったジャズコンサートや、自主制作映画の上映会、写真展など、多岐にわたる文化イベントにも利用されました。

衰退と閉鎖

1950年代後半になると、状況は変化し始めます。1957年には同じ有楽町によみうりホールが開設され、日本テレビ系列の公開番組などに利用されるようになりました。また、各放送局も次第に自社スタジオの整備を進め、放送用に特化しない多目的ホールも増加しました。

AMラジオ放送の番組も、この頃から聴取者のニーズを分析し、時間帯別にターゲットを絞った編成へと移行。1965年頃には、生放送のワイド番組が中心となり、公開放送のスタイルも、スタジオに観客を集める形式から、レポーターが街中の店舗やイベント会場に出向いて中継する形式へと変化していきました。これにより、AMラジオにおけるホールでの公開放送番組は減少傾向となります。

テレビの公開放送番組は依然として盛んでしたが、蚕糸会館という古い雑居ビルに入居していた東京ヴィデオ・ホールには、放送機材の搬入出に適したエレベーターがありませんでした。正面入口から狭いエントランスを経由し、乗用エレベーターを使って6階まで機材を運び込まなければならず、使い勝手が良いとは言えませんでした。そのため、公開放送番組や各種イベントの開催場所は、より設備の整った他の会場へと分散していきました。

ホールの運営主体は、1968年2月に共同テレビジョンに引き継がれ、以降はフジサンケイグループに属するフジテレビ、文化放送、ニッポン放送の公開番組を中心に運営されました。しかし、カラーテレビ放送への対応ができておらず、対応のための大規模な設備投資が必要とされました。費用対効果を検討した結果、改修は行われず、1971年9月に東京ヴィデオ・ホールはその歴史に幕を下ろしました。ホールの跡地は事務所に改装されたと言われています。

なお、蚕糸会館自体は老朽化に伴い、1983年に現在のビルに建て替えられています。

主な収録番組例

東京ヴィデオ・ホールで収録された番組としては、以下のようなものが挙げられます。

『昨日のつづき』（ラジオ関東、現：アール・エフ・ラジオ日本）
『トリス・ジャズ・ゲーム』（文化放送） - ロイ・ジェームス司会、ビッグ・フォア出演。
『お笑いタッグマッチ』（フジテレビ）
『お昼のゴールデンショー』（フジテレビ）

黎明期の日本の放送文化、特に公開放送の一時代を築いた場所と言えるでしょう。

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