東京夜曲

東京夜曲 (1997)

『東京夜曲』は、1997年に公開された市川準監督による日本映画です。下町の商店街を舞台に、過去を抱えた人々が織りなす複雑な人間関係と、繊細な感情の機微を描き出しています。

あらすじ

数年ぶりに下町の商店街に帰ってきた浜中康一。妻の久子は、まるで何もなかったかのように彼を迎えます。しかし、久子に密かに想いを寄せる作家志望の青年・朝倉は、康一への反感から、二人の過去を探り始めます。

康一の家の向かいにある喫茶店「喫茶大沢」を経営するたみは、かつて康一と恋仲にありました。たみを愛する病身の大沢は、彼女と結婚しますが、その愛は愛情からなのか、それとも憐みからなのかは定かではありません。当時、大沢を強く想っていた久子は、たみと大沢の関係を知りながらも、康一と結婚します。それは、残された者同士がそれぞれの想いを胸に秘めた結果でした。

しかし、大沢の死によって、辛うじて保たれていた四人の均衡は崩れ、康一は町から逃げるように去ってしまいます。康一には後ろめたい気持ちがありましたが、それを許す久子にも、かつての大沢への想いを秘めて康一と結婚したことへの罪悪感が残っていました。

その後、康一は家電店を辞め、ゲームソフト店を経営して成功を収めます。たみは店を若い人に譲り、故郷の岡山へ帰ることを決意します。四人の複雑な関係を知った朝倉は、久子への想いを断ち切り、作家としてデビューすることを機に、町を後にします。

制作の裏側

主演の長塚京三は、撮影前に出演していた映画のロケ中に膝を骨折していましたが、市川監督は、放浪者が故郷に帰ってくるという物語の設定から、「足を怪我した状態でタクシーに乗って帰ってくる」という演出を提案しました。長塚もこの提案に賛同し、骨折したまま撮影に臨みました。物語の展開に合わせて、康一の足が徐々に回復していく様子が描かれています。

キャスト

浜中康一：長塚京三
浜中久子：倍賞美津子
大沢たみ：桃井かおり
朝倉定二：上川隆也

スタッフ

監督・原案：市川準
脚本：佐藤信介
撮影：小林達比古
音楽：清水一登、れいち

受賞歴

文化庁優秀映画作品賞
モントリオール世界映画祭最優秀監督賞
高崎映画祭最優秀監督賞
ブルーリボン賞主演女優賞（桃井かおり）
毎日映画コンクール女優主演賞（桃井かおり）
報知映画賞助演女優賞（倍賞美津子）

『東京夜曲』は、下町の風景を背景に、登場人物たちの心の葛藤を丁寧に描いた作品です。市川準監督ならではの繊細な演出と、俳優たちの卓越した演技が光ります。大人の恋愛模様と、それぞれの過去を背負いながら生きる人々の姿を、ぜひご覧ください。

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