東京市電気局1653形電車

東京市電気局1653形電車

東京市電気局1653形電車は、1919年に登場した路面電車の一モデルです。この車両の登場は、大正初頭の第一次世界大戦による大戦景気の影響を受けており、東京市内での市電の利用者数は急増していました。この需要増加に応じて、電気局は様々な車両を導入し、輸送力の強化に努めていましたが、それでも日々の混雑は改善されず、この新しい1653形電車が開発されることになりました。

1653形電車は、国内初の3扉の路面電車でもあり、デッキ部分に扉を持つ密閉式車体としても特徴があります。車両の全長は13メートルとなり、定員も以前の1471形から76人に増加しました。通称として「ホヘ中形」と呼ばれるこの車両は、効率的な乗降を目指してデザインされています。

台車は、製造当初に搭載されていたタイプと、後に電気局が開発した様々な台車に交換される形で多様性を持たせました。また、主電動機は国産のものが使用されており、トロリーポールによる集電方式が採用されました。そのほかにもロックフェンダーや救助網など、安全面にも配慮された設計となっています。

沿革

1653形電車は1919年に浜松町工場で試作され、200両が梅鉢鉄工所と天野工場で製造されました。しかし、量産を急いだ結果、様々な問題が発生しました。特に台枠の強度不足からデッキ部の垂下が見られ、「への字電車」と呼ばれるほどの異常がありました。この問題に対して頻繁に補修が行われましたが、根本的な改善には至りませんでした。

また、空気制動装置も数々の不具合があり、性能を十分に発揮できない事例が続出しました。大型化された車体が東京市電の急曲線の多い路線には不適切で、比較的線形の良い区間に限っての運用にとどまりました。

加えて、1653形の特徴である中扉にも不便な点がありました。乗降時の段差が大きいため、1921年から折りたたみ式ステップが追加されましたが、効果は限定的でした。入換作業の際に職員との接触事故や、停車前に扉が開いてステップが下りた際に起こる事故が発生し、20両への取り付けで中止されました。

結局、電気局は1653形の増備を断念し、1921年からは1471形とほぼ同一設計の1854形の製造に切り替えました。1925年の改番では、既存車両の多くが2600形に改番され、更に数年後には全車両が廃車となりました。最終的には、南千住車庫に残存していた車両が新橋と南千住の間で利用されていました。

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