東京暮色

『東京暮色』について

『東京暮色』（とうきょうぼしょく）は、日本の名監督小津安二郎による映画で、1957年に公開されました。本作は小津が手掛けた最後の白黒映画であり、戦後の日本映画において特に暗い内容を持つ作品として知られています。また、昭和の大女優・山田五十鈴が主演した唯一の作品でもあり、その点でも重要な位置を占めています。

概要

『東京暮色』は、アメリカの名作『エデンの東』（1955年）の日本的なアプローチとされています。両作品は家族の崩壊と道徳的葛藤を描いていますが、小津の作品では妻が出奔する設定が特徴的です。次女の明子役には当初岸恵子が予定されていましたが、彼女のスケジュールが合わず、有馬稲子がその役に選ばれました。

本作は、戦後の小津作品の中でも際立って陰鬱であり、実際に夜の場面が多く含まれています。明子役の有馬は、全体を通して無表情で、笑顔を見せることがありません。このような暗いテーマに対して、共同脚本を担当した野田高梧は批判的な立場を取り、製作過程で小津としばしば意見を対立させたとされています。それでも、小津はこの作品に自信を持っており、公開後の評価は低迷しました。映画雑誌のキネマ旬報によるランキングでは19位とされたことから、多くの人々から「失敗作」とみなされることとなりました。

あらすじ

物語は、銀行に勤務する杉山周吉とその娘・明子の二人暮らしから始まります。長女の孝子は夫との関係が悪化し、幼い娘と共に実家に戻っています。この明子は英文速記を学ぶ学生ですが、徐々に質の良くない交友関係に巻き込まれていきます。特に、遊び人の川口や木村という男との関わりが、彼女の運命に関わる重要な要素となります。明子は木村との間に子どもを妊娠し、中絶を決意するものの、彼女の周りは次第に彼女を孤立させていきます。

また、明子が母親を探し求める過程が描かれます。彼女は雀荘の女主人である喜久子が実の母である可能性に気付きます。明子の追及が続く中で、彼女は多くの心の葛藤に苦しみ、最終的には自らの命を選ぶ tragique な結末へと至ってしまいます。この暗いストーリーは、戦後の日本社会における家族や人間関係の脆さを映し出しています。

スタッフ・キャスト

この映画の製作には、監督・小津安二郎、脚本には野田高梧と小津自身が参加しています。キャストには、杉山周吉役の笠智衆、長女の孝子を演じた原節子、明子役の有馬稲子、そして母親役の山田五十鈴など豪華な顔ぶれが揃っています。

まとめ

『東京暮色』は、家族の絆や個々の苦悩を描いた重厚な人間ドラマであり、特に戦後という時代背景の中での人間関係の難しさを追求した作品です。小津監督の独特の視点と演出が光る本作は、多くの映画ファンにとって記憶に残る作品となっています。

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