東京温泉

東京温泉：銀座の伝説的入浴施設

1951年から1993年まで、東京・銀座に存在した『東京温泉』。単なる入浴施設を超えた、その華やかな歴史と、閉鎖に至るまでの波乱万丈な道のりを紐解きます。

時代の寵児：斬新な設備とサービス

創業者の許斐氏利によって誕生した東京温泉は、日本で初めて「サウナ」と銘打った施設として知られています。箱型の1人用蒸し風呂の設置や、サービスガールのマッサージなど、当時の日本では類を見ない斬新なサービスを提供し、大きな話題を呼びました。

料金は一般の銭湯の60倍にも及ぶ600円と高価格帯でしたが、ミルク風呂や個室トルコ風呂、そしてキャバレーや麻雀クラブといった娯楽施設も併設。はとバスの観光コースにも含まれるなど、銀座のランドマークとして多くの人々を魅了しました。 「ミス・トルコ」と呼ばれたサービスガールは、東京温泉の象徴的な存在でした。

銀座の華：映画のロケ地にも

東京温泉は、その独特の雰囲気から、数々の映画作品にも登場しています。成瀬巳喜男監督作品や、モンド映画『世界残酷物語』の日本ロケ地として使用されたことは有名です。 これらの作品を通して、東京温泉は、戦後復興期の銀座、そして高度経済成長期の日本社会の一端を映し出しました。

栄光と転落：バブル崩壊と閉鎖

バブル期には株式や不動産投資、ゴルフ場開発にも進出しましたが、これらの事業は失敗に終わり、東京温泉の経営は急速に悪化。1993年、惜しまれつつも閉鎖を余儀なくされました。その後、跡地には銀座ウォール・ビルディングが建設され、現在も銀座の街並みに溶け込んでいます。 中華料理店や英会話学校などが入居する多目的ビルとなり、上層階は住宅として利用されています。しかし、その建物の中に、かつて華やかな賑わいを見せていた東京温泉の姿を想像すると、感慨深いものがあります。

東京温泉ステーションプラザ 東京クーア

東京温泉株式会社は、東京駅八重洲口地下にも『東京温泉ステーションプラザ 東京クーア』を運営していました。こちらは男性専用の施設で、早朝からの営業により、寝台列車を利用するビジネスマンや旅行者などに利用されていました。東名ハイウェイバスのドリーム号利用者向けの割引券も提供され、交通の要衝である東京駅にふさわしい立地とサービスが提供されていました。2007年の東京駅再開発工事のため閉店しました。

社会問題にも発展：写真掲載を巡る裁判

1956年には、写真掲載を巡る裁判沙汰「写真サロン事件」「香水風呂事件」とも呼ばれる事件が発生しました。来日中のアメリカ合唱団が利用する様子を撮影した写真が雑誌に掲載された際、一般客も写り込んでおり、説明文に不適切な表現が含まれていたことなどから、一般客が出版社と東京温泉を訴える事態となりました。 裁判では原告の訴えは棄却されましたが、戦後の大衆文化とプライバシーの問題に関する議論を巻き起こす出来事となりました。

関係者とその後

東京温泉の経営は、創業者である許斐氏利から、その息子である許斐勝彦へと引き継がれ、その後も数名の代表が会社を率いました。 しかし、バブル崩壊後の経営難を乗り越えることはできず、会社は解散することとなりました。

まとめ：時代の変遷を映す鏡

東京温泉は、単なる入浴施設という枠を超え、時代の変遷を映す鏡でした。その華やかな時代、そして苦悩の時代は、戦後日本の高度経済成長からバブル崩壊までを象徴的に物語る存在と言えるでしょう。 閉鎖から年月が経ちますが、その名は、銀座の歴史、そして日本の大衆文化史の中に、今も記憶されています。 多くの書籍や文献でその存在が語られ、後世に語り継がれていくことでしょう。

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