東大寺献物帳

東大寺献物帳：聖武天皇と光明皇后の祈りと、日本の宝を伝える記録

東大寺献物帳は、聖武天皇の死後、光明皇后（当時皇太后）が東大寺に奉納した宝物の目録です。単なる目録ではなく、正倉院宝物の歴史や製作技法を知る上で極めて貴重な一次史料であり、その豪華な装丁と内容から、それ自体も宝物として高い価値を有しています。

献納の経緯と献物帳の内容

天平勝宝8年（756年）、聖武天皇の七七忌法要に際し、光明皇后は聖武天皇ゆかりの宝物を東大寺をはじめとする18カ寺に献納しました。この際に作成されたのが、東大寺献物帳です。

献物帳は、『国家珍宝帳』『種々薬帳』『屏風花氈等帳』『大小王真跡帳』『藤原公真跡屏風帳』の5通からなり、それぞれに異なる宝物が記録されています。

国家珍宝帳: 聖武天皇所縁の宝物を中心とした目録で、600点以上の品々が記載されています。願文には聖武天皇の功績と冥福を祈る言葉が綴られ、皇后の深い哀悼の念が感じられます。
種々薬帳: 朝廷の高貴な薬物60種とその収納箱を記録した目録です。薬物の種類や産地、使用方法など、当時の医療技術の一端を知る上で重要な情報が含まれています。
屏風花氈等帳: 後日、追加で奉納された宝物の目録で、屏風、花氈、香炉などが記載されています。
大小王真跡帳: 書聖王羲之とその子王献之の書を記録した目録です。現存しないものの、その内容から当時の書道文化の一端を知ることができます。
藤原公真跡屏風帳: 光明皇后が私的に奉納したと推測される、藤原不比等の書を貼った屏風の目録です。

これらの献納は、聖武天皇の冥福を祈るだけでなく、皇后の強い意志と、皇室と藤原氏の関係を示すものでもあったと推測されています。

東大寺献物帳の特徴

東大寺献物帳は、その作成の精巧さにおいても特筆すべき点があります。

高級料紙: 5通全てに最高級の料紙が使用されています。紙の種類や産地については、現在も研究が続けられています。
天皇玉璽: 各巻物には、天皇の玉璽が隙間なく押印されています。朱肉には鉛丹と水銀朱が用いられています。
書風: 各巻物の書風は、時代を反映したものであり、書道史研究においても貴重な資料となっています。

正倉院宝物との関連

東大寺献物帳に記載された宝物の多くは、現在、正倉院に保管されています。献物帳と実物が同時に現存している例は稀であり、両者の関連性から、宝物の歴史的・文化的な価値がさらに高まっています。献物帳に記載された宝物を「帳内御物」と呼び、正倉院宝物とは区別して扱われています。

研究の現状

現在も、東大寺献物帳に関する研究は活発に行われています。献納事業の経緯、献物帳の作成目的、記載されている宝物の詳細など、様々な謎解きが続けられています。今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

まとめ

東大寺献物帳は、単なる宝物の目録を超え、聖武天皇の時代、そして光明皇后の深い思いを知る上で、欠かせない重要な史料です。その内容と保存状態から、日本の歴史と文化を深く理解するために、非常に貴重な存在と言えるでしょう。

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