東峰十字路事件

東峰十字路事件：成田空港建設と激化した反対運動の悲劇

1971年（昭和46年）9月16日、新東京国際空港（現成田国際空港）建設予定地において、第二次行政代執行の初日、後方警備にあたっていた神奈川県警察特別機動隊が、極左暴力集団の襲撃を受け、警察官3名が殉職する痛ましい事件が発生しました。この事件は、東峰十字路事件、あるいは東峰十字路警察官殺害事件として知られています。

事件の発端：成田空港建設と激しい反対運動

成田空港建設計画は、地元農民の強い反対運動に直面していました。第一次代執行では、反対派や支援者による妨害行為が激しく、警察の警備は大きな困難を強いられました。この経験から、千葉県警察は第二次代執行では、より厳重な警備体制を敷くことを決定。約9000人を動員する「三重丸作戦」を立案しました。しかし、警察庁の予算上の制約により、動員数は3000人余りに減らされ、外周警備が手薄になる結果となりました。

反対派の作戦：ゲリラ戦術

一方の反対派は、これまでの闘争経験を活かし、新たな戦術を展開。機動隊の阻止線を突破する「ゲリラ部隊」を編成し、警察の目を欺き、機動隊と対峙することを計画していました。中核派などの新左翼勢力は、事前に「機動隊を殲滅する」と宣言し、過激な行動を煽り立てていました。

事件当日：凄惨な襲撃

9月16日、代執行開始直後から、反対派のゲリラ部隊による襲撃が始まりました。特に、神奈川県警察特別機動隊第2大隊（堀田大隊）が、東峰十字路付近で激しい襲撃を受けました。事前に分散配置されていた堀田大隊は、予想をはるかに超える数のゲリラ部隊に襲われ、完全に包囲されてしまう形となりました。

福島小隊の悲劇

特に、福島誠一警部補率いる第1中隊第1小隊（福島小隊）は、圧倒的な数のゲリラに襲われ、孤立無援の状況に陥りました。激しい火炎瓶攻撃、投石、竹槍による襲撃を受け、福島警部補、柏村信治巡査部長、森井信行巡査の3名が殉職。多くの隊員が重軽傷を負いました。隊員たちは、火炎瓶で火だるまになり、無抵抗の状態で、執拗にリンチを受けました。

警察の対応と捜査の難航

警察は、救援要請を受け、警視庁機動隊などを現場に派遣しましたが、ゲリラ部隊はすでに逃走した後でした。捜査は難航し、明確な証拠がないまま、空港反対同盟青年行動隊員らを中心とした逮捕、起訴が行われましたが、事件への直接的な関与を証明するのは困難でした。

裁判と判決：執行猶予判決

1986年、千葉地方裁判所は、被告ら55名に対し、公務執行妨害罪など有罪判決を下しましたが、実刑判決を受けた被告はいませんでした。証拠不十分や長期審理などを考慮した執行猶予付き判決となりました。この判決は、警察側の捜査の不備や、多人数による混乱状態の中で、個々の犯行を特定することが困難であった点を反映したものと言えるでしょう。

事件の影響：世論の逆風と運動の転換点

事件後、世論は反対運動に対して一転して批判的になりました。反対派への同情的な報道姿勢も見直され、過激派への批判が強まりました。この事件は、反対運動の転換点となり、地元住民と新左翼勢力の間の力関係にも変化をもたらしました。

事件のその後：政府と反対派の対話

1990年代以降、政府と旧熱田派の間で対話が始まり、政府は空港建設時の強硬姿勢について謝罪。多くの地権者が移転に応じることで、空港の二期工事が進展しました。事件から50年が経過した2021年、殉職警察官の慰霊祭が執り行われ、事件の悲劇を悼むとともに、成田空港の安全と円滑な運用への決意が改めて表明されました。

東峰十字路事件は、日本の高度経済成長期における社会運動の激しさ、警察と反対派、そして新左翼勢力との複雑な関係性を示す象徴的な事件として、歴史に刻まれています。 この事件を通して、暴力による解決の不可能性、そして対話の重要性が改めて問われています。

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